労働裁判・重要判例

労働契約法・通達

基発0810第2号 平成24年8月10日(平成24年10月26日一部改正)

目的(第1条関係)
定義(第2条関係)
労働契約の原則(第3条関係)
労働契約の内容の理解の促進(第4条関係)
労働者の安全への配慮(第5条関係)
労働契約の成立(第6条・7条関係)
労働契約の内容の変更(第8条関係)
就業規則の変更による労働契約の内容の変更(第9条・10条関係)
就業規則の変更に係る手続(第11条関係)
就業規則違反の労働契約(第12条関係)
法令及び労働協約と就業規則との関係(第13条関係)
出向(第14条関係)
懲戒(第15条関係)
解雇(第16条関係)
契約期間中の解雇(第17条1項関係)
契約期間についての配慮(第17条2項関係)
期間の定めのない労働契約への転換(第18条関係)
有期労働契約の更新等(第19条関係)
期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(第20条関係)

労働契約法の改正情報






総則(第1章関係)

目的 (第1条関係)

内容
(ア)
法第1条は、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項として民事的効力を明らかにする規定等を定めることにより、労働者および使用者による合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働者及び使用者との間において個別労働関係紛争が生じることのない円滑な関係の維持を図っていくこと、すなわち、「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資すること」 が法の目的であることを規定したものである。


(イ)
法第1条の「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則」 には、法第3条第1項の労使対等の原則、法第6条の労働契約の成立についての合意の原則及び法第8条の労働契約の変更についての合意の原則が含まれる。


(ウ)
第1条の「その他労働契約に関する基本的事項」には、第3条第1項以外の第1章の労働契約の原則等を定める規定、第6条および第8条以外の第2章の就業規則と労働契約との法的関係等を定める規定、第3章の出向、懲戒および解雇に関する権利濫用禁止規定および第4章の期間の定めのある労働契約に関する規定が含まれる。


(エ)
(イ)および(ウ)のような規定を法に定めることにより、第1条の「合理的な労働条件の決定または変更が円滑に行われる」ことが促されることによって、個別労働関係紛争が防止されることになり、これにより「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資する」こととなるものである。

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定義(第2条関係)

労働者(第2条第1項関係)

(ア)
第2条第1項の 「労働者」 とは、「使用者」 と相対する労働契約の締結当事者であり、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」 のすべてが含まれる。

(イ)
第2条第1項の「労働者」に該当するか否かは、同項に 「使用者に使用されて」 と規定されている通り、労務提供の形態や報酬の労務対償性、およびこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、使用従属関係が認められるか否かにより判断されるものであり、これが認められる場合には、「労働者」 に該当するものである。これは労働基準法・第9条の 「労働者」 の判断と同様の考え方である。

(ウ)
民法第623条の 「雇用」 の労働に従事する者は、第2条第1項の 「労働者」 に該当するものである。また、民法第632条の 「請負」、第643条の 「委任」 または非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、第2条第1項の 「労働者」 に該当する。

(エ)
第2条第1項の 「賃金」 とは、賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。これは労働基準法・第11条の 「賃金」 と同義である。


使用者(第2条第2項関係)

第2条第2項の 「使用者」 とは、「労働者」 と相対する労働契約の締結当事者であり、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」 をいうものである。したがって、個人企業の場合は、その企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいう。これは労働基準法・第10条の 「事業主」 に相当するものであり、同条の 「使用者」 より狭い概念である。

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労働契約の原則(第3条関係)

労使対等の原則(第3条第1項関係)

当事者の合意により契約が成立し、または変更されることは、契約の一般原則であるが、個別の労働者および使用者の間には、現実の力関係の不平等が存在している。

このため、第3条第1項において、労働契約を締結し、又は変更するに当たっては、労働契約の締結当事者である労働者および使用者の対等の立場における合意によるべきという「労使対等の原則」を規定し、労働契約の基本原則を確認したものである。

これは、労働条件の決定について労働者と使用者が対等の立場に立つべきことを規定した労働基準法・第2条第1項と同様の趣旨である。


均衡考慮の原則(第3条第2項関係)

第3条第2項は、労働契約の締結又は変更に当たり、均衡を考慮することが重要であることから、労働契約の締結当事者である労働者、および使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、就業の実態に応じて、均衡を考慮すべきものとする「均衡考慮の原則」を規定したものである。


仕事と生活の調和への配慮の原則(第3条第3項関係)

第3条第3項は、近年、仕事と生活の調和が重要となっていることから、この重要性が改めて認識されるよう、労働契約の締結当事者である労働者および使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、仕事と生活の調和に配慮すべきものとするという「仕事と生活の調和への配慮の原則」を規定したものである。


信義誠実の原則(第3条第4項関係)

当事者が契約を遵守すべきことは、契約の一般原則であり、「権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」旨を規定した民法第1条第2項は労働契約についても適用されるものであって、労働契約が遵守されることは、個別労働関係紛争を防止するために重要である。

このため、第3条第4項において、労働者および使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、および義務を履行しなければならないことを規定し、「信義誠実の原則」を労働契約に関して確認したものである。これは労働条件を定める労働協約、就業規則および労働契約の遵守義務を規定した労働基準法・第2条第2項と同様の趣旨である。


権利濫用の禁止の原則(第3条第5項関係)

当事者が契約に基づく権利を濫用してはならないことは、契約の一般原則であり、「権利の濫用は、これを許さない」旨を規定した民法第1条第3項は労働契約についても適用されるものであるが、個別労働関係紛争の中には、権利濫用に該当すると考えられるものもみられるところである。

このため、第3条第5項において、労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならないことを規定し、「権利濫用の禁止の原則」を労働契約に関して確認したものである。

なお、第3章において、出向、懲戒および解雇に関する権利濫用を禁止する旨を規定しているが、同章で規定していない場面においても、第3条第5項の「権利濫用の禁止の原則」が適用される。

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労働契約の内容の理解の促進(第4条関係)

労働者の理解の促進(第4条第1項関係)

(ア)
第4条第1項は、労働条件を提示するのは一般的に使用者であることから、使用者は労働者に提示する労働条件および労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすることを規定したものである。

(イ)
第4条第1項は、労働契約の締結前において使用者が提示した労働条件について説明等をする場面や、労働契約が締結または変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものである。これは労働基準法・第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものである。

(ウ)
第4条第1項の「労働者に提示する労働条件」とは、労働契約の締結前または変更前において、使用者が労働契約を締結または変更しようとする者に提示する労働条件をいうものである。

(エ)
第4条第1項の「労働契約の内容」は、有効に締結または変更された労働契約の内容をいうものである。

(オ)
第4条第1項の「労働者の理解を深めるようにする」については、一律に定まるものではないが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、使用者がそれを説明しまたは労働者の求めに応じて誠実に回答すること、労働条件等の変更が行われずとも、労働者が就業規則に記載されている労働条件について説明を求めた場合に使用者がその内容を説明すること等が考えられる。


書面確認(第4条第2項関係)

(ア)
第4条第2項は、労働者および使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面で確認することについて規定したものである。

(イ)
第4条第2項は、労働契約が締結または変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものである。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものである。

(ウ)
第4条第2項の「労働契約の内容」については、「労働者の理解の促進」(第4条第1項関係)の(エ)と同様である。

(エ)
第4条第2項の「(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む)」は、期間の定めのある労働契約が締結される際に、期間満了時において、更新の有無や更新の判断基準があいまいであるために個別労働関係紛争が生じていることが少なくないことから、期間の定めのある労働契約について、その内容をできる限り書面により確認することが重要であることを明らかにしたものである。

「期間の定めのある労働契約に関する事項」には、有期労働契約の締結、更新および雇い止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示・第357号)において使用者が明示しなければならないこととされている更新の有無や更新の判断基準が含まれる。

なお、第4条第1項等、法の他の規定における「労働契約の内容」についても、期間の定めのある労働契約に関する事項は含まれるものである。

(オ)
第4条第2項の「できる限り書面で確認する」については、一律に定まるものではないが、例えば、労働契約締結時または労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、労働者および使用者が話し合った上で、使用者が労働契約の内容を記載した書面を交付する等が考えられる。

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労働者の安全への配慮(第5条関係)

内容

(ア)
第5条は、使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものである。

(イ)
第5条の「労働契約に伴い」は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものである。

(ウ)
第5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものである。

(エ)
第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものである。なお、労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならない。

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労働契約の成立および変更(第2章関係)

労働契約の成立(第6条・第7条関係)

内容 (第6条)

(ア)
第6条は、労働契約の成立は労働者および使用者の合意によることを規定するとともに、「労働者が使用者に使用されて労働」すること、および「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことが合意の要素であることを規定したものである。

(イ)
第6条に「労働者が使用者に使用されて労働し」と規定されているとおり、労働契約は、使用従属関係が認められる労働者と使用者との間において締結される契約を把握する契約類型であり、労働者側からみた場合は、一定の対価(賃金)と一定の労働条件のもとに、自己の労働力の処分を使用者に委ねることを約する契約である。

(ウ)
民法第623条の「雇用」は、労働契約に該当する。また、民法第632条の「請負」、第643条の「委任」または非典型契約であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められ、当該契約で労務を提供する者が第2条第1項の「労働者」に該当する場合には、当該契約は労働契約に該当する。

(エ)
第6条の「賃金」については、「定義(第2条関係)」の「労働者(第2条第1項関係)の(エ)と同様である。

(オ)
第6条に「合意することによって成立する」と規定されているとおり、労働契約は、労働契約締結当事者である労働者および使用者の合意のみにより成立するものである。したがって、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められない。

また、第6条の動労契約の成立の要件としては、労働条件を詳細に定めていなかった場合であっても、労働契約そのものは成立し得る。

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内容(第7条)

(ア)
第7条は、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること、および「就業規則を労働者に周知させていたこと」という要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものである。

これは、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合であっても、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定する。

(イ)
第7条本文に「労働者および使用者が労働契約を締結する場合において」と規定されているとおり、第7条は労働契約の成立場面について適用されるものであり、既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されているが就業規則は存在しない事業場において新たに就業規則を制定した場合については適用されない。また、就業規則が存在する事業場で使用者が就業規則の変更を行った場合については、第10条の問題となる。

(ウ)
第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなる。

就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続きに関する規定等労働条件でないものについては、第7条本文によっても労働契約の内容とならない。

(エ)
第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律および労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法・第89条の「就業規則」と同様であるが、第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法・第89条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれる。

(オ)
第7条の「周知」とは、例えば、
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
② 書面を労働者に交付すること。
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいう。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、第7条の「周知させていた」に該当する。

なお、労働基準法・第106条の「周知」は、労働基準法施行規則・第52条の2により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断される。

(カ)
第7条本文の「労働者に周知させていた」は、その事業場の労働者および新たに労働契約を締結する労働者に対してあらかじめ周知させていなければならないものであり、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時である場合も含まれる。

(キ)
第7条は、就業規則により労働契約の内容を補充することを規定したものであることから、同条本文の規定による法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、同条ただし書により、第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先する。

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労働契約の内容の変更(第8条関係)

内容

(ア)
第8条は、「労働者および使用者」が「合意」するという要件を満たした場合に、「労働契約の内容である労働条件」が「変更」されるという法的効果が生じることを規定したものである。

(イ)
第8条に「合意により」と規定されているとおり、労働契約の内容である労働条件は、労働契約締結当事者である労働者および使用者の合意のみにより変更されるものである。したがって、労働契約の変更の条件としては、変更内容について書面を交付することまでは求められない。

(ウ)
第8条の「労働契約の内容である労働条件」には、労働者および使用者の合意により労働契約の内容となっていた労働条件のほか、第7条本文により就業規則で定める労働条件によるものとされた労働契約の内容である労働条件、第10条本文により就業規則の変更により変更された労働契約の内容である労働条件、および第12条により就業規則で定める基準によることとされた労働条件が含まれるものであり、労働契約の内容である労働条件はすべて含まれる。

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就業規則の変更による労働契約の内容の変更(第9条・第10条関係)

内容(第9条関係)

(ア)
第9条本文は、第8条の労働契約の変更についての「合意の原則」に従い、使用者が労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないという原則を確認的に規定したものである。第9条ただし書は、第10条の場合は、第9条本文に規定する原則の例外であることを規定したものである。

(イ)
第9条の「就業規則」については、「内容(第7条)」の(エ)と同様である。

(ウ)
第9条の「労働者の不利益」については、個々の労働者の不利益をいうものである。

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内容(第10条関係)

(ア)
第10条は、「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」において、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと、および「就業規則の変更」が「合理的なものである」ことという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものである。

(イ)
第10条は、就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものである。なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、第10条は適用されない。

(ウ)
第10条の「就業規則の変更」には、就業規則の中に現存する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれる。

(エ)
第10条の「就業規則」および「周知」については、「内容(第7条)」の(エ)と(オ)と同様である。

(オ)
第10条本文の合理性の判断の考慮要素。

第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は、就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっての考慮要素として例示したものであり、個別具体的な事案に応じて、これらの考慮要素に該当する事実も含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮され、合理性判断が行われることとなる。


第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度」については、実際に紛争になる事例は、就業規則の変更により個々の労働者に不利益が生じたことに起因するものであり、個々の労働者の不利益の程度をいうものである。また、第10条本文の「変更後の就業規則の内容の相当性」については、就業規則変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれる。


第10条本文の「労働条件の変更の必要性」は、使用者にとっての就業規則による労働条件の変更の必要性をいうものである。


第10条本文の「労働組合等との交渉の状況」は、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をいうものである。「労働組合等」には、労働者の過半数の意思を代表する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれる。


第10条本文の「その他の就業規則の変更に係る事情」は、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮される。


第10条本文の合理性判断の考慮要素と判例法理との関係については、次のとおりであり、同条本文は、判例法理に沿ったものである。

○就業規則の変更の合理性判断に関する裁判例として、第四銀行事件最高裁判決においては、

①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合または他の従業員の対応
⑦同種事項に関するわが国社会における一般的状況

という7つの考慮要素が列挙されているが、これらの中には内容的に互いに関連し合うものもあるため、第10条本文では、関連するものについては統合して列挙している。

具体的には、第四銀行事件最高裁判決において示された「①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」「②使用者側の変更の必要性の内容・程度」「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」「⑤労働組合等との交渉の経緯」について、第10条本文ではそれぞれ、「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」として規定した。

このうち、第10条の「変更後の就業規則の内容の相当性」には、就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであり、第四銀行事件際高裁判決で列挙されている考慮要素である「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」のみならず、「④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」「⑦同種事項に関するわが国社会における一般的状況」も含まれる。また、これらの考慮要素に含まれない事項についても「その他の就業規則の変更に係る事情」という文言で包括的に表現されている。

また、第10条の「労働組合等との交渉の状況」の労働組合等には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであり、第四銀行事件際高裁判決で列挙されている「⑤労働組合等との交渉の経緯」「⑥他の労働組合または他の従業員の対応」はこれに該当する。したがって、第10条の規定は判例法理に沿った内容であり、判例法理に変更を加えるものではない。

○大曲市農業協同組合事件際高裁判決においては、「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」と判示されており、第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではない。

○みちのく銀行事件最高裁判決においては、秋北バス事件最高裁判決、大曲市農業協同組合事件際高裁判決および第四銀行事件最高裁判決の判旨を引用した上で、「本件における賃金体系の変更は、短期的に見れば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなるでのある。就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかない」と判示され、また、「本件では、行員の約73%を組織する労組が本件第1次変更および第2次変更に同意している。しかし、X(=原告の行員)らの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである」と判示されており、第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではない。

(カ)
就業規則の変更が第10条本文の「合理的」なものであるとういう評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものである。

(キ)
第10条本文の「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は、就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点である。

(ク)
第10条ただし書の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分については、同条ただし書により、第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先する。

(ケ)
なお、第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について、①就業規則の変更により変更することを許容するもの ②就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもの のいずれもがあり得るものであり、①の場合には第10条本文が適用され、②の場合には同条ただし書が適用される。

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就業規則の変更に係る手続(第11条関係)

内容

(ア)
第10条は、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することができる場合について規定しているが、第11条は、労働基準法において、就業規則の変更の際に必要となる手続きが規定されていることを規定したものである。

(イ)
就業規則の変更については、①労働基準法・第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない ②労働基準法・第90条により、就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず、①の届出の際に、その意見を記した書面を添付しなければならないとされている。

(ウ)
労働基準法・第89条および第90条の手続きが履行されていることは、第10条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、同条本文の合理性判断に際しては、就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることから、使用者による労働基準法・第89条および第90条の遵守の状況は、合理性判断に際して考慮され得る。

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就業規則違反の労働契約(第12条関係)

内容

(ア)
第12条は、就業規則を下回る労働契約は、その部分については就業規則で定める基準まで引き上げることを規定したものである。

(イ)
第12条の「就業規則」については、「内容(第7条の(エ)」と同様である。

(ウ)
第12条の「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、例えば、就業規則に定められた賃金より低い賃金等、就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいうものである。

(エ)
第12条は、就業規則で定める基準以上の労働条件を定める労働契約は、これを有効とする趣旨である。

(オ)
第12条の「その部分については、無効とする」とは、就業規則で定める基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であり、労働契約中のその他の部分は有効である。

(カ)
第12条の「無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とは、労働契約の無効となった部分については、就業規則の規定に従い、労働者と使用者との間の権利義務関係が定まるものである。

(キ)
なお、労働基準法・第93条については、法附則第2条による改正により、「労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる」旨を規定したところであり、これは改正前と同内容である。

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法令及び労働協約と就業規則との関係(第13条関係)

内容

(ア)
第13条は、就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合は、その労働条件は労働契約の内容とはならないことを規定したものである。なお、第13条は、労働基準法・第92条第1項と同趣旨の規定であり、就業規則と法令または労働協約との関係を変更するものではない。

(イ)
第13条の「就業規則」については、「内容(第7条の(エ)」と同様である。

(ウ)
第13条の「法令」とは、強行法規としての性質を有する法律、政令および省令をいうものである。なお、罰則を伴う法令であるか否かは問わないものであり、労働基準法以外の法令も含むものである。

(エ)
第13条の「労働協約」とは、労働組合法・第14条にいう「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する」合意で、「書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したもの」をいう。また、第13条の「労働協約に反する場合」とは、就業規則の内容が労働協約において定められた労働条件その他労働者の待遇に関する基準(規範的部分)に反する場合をいうものである。

(オ)
第13条の「労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については」とは、事業場の一部の労働者のみが労働組合に加入しており、労働協約の適用が事業場の一部の労働者に限られている場合には、労働協約の適用を受ける労働者(労働組合法・第17条及び第18条により労働協約が拡張適用される労働者を含む)に関してのみ、第13条が適用されることをいう。

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労働契約の継続及び終了(第3章関係)

出向(第14条関係)

内容

(ア)
第14条は、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合であっても、その出向命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情が考慮されることを規定したものである。

(イ)
第14条の「出向」とは、いわゆる在籍型出向をいうものであり、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいう。

(ウ)
第14条の「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは、労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断される。

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懲戒(第15条関係)

内容

(ア)
第15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上認められない場合」には権利濫用に該当するものとして無効になることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、労働者の行為の性質及びその態様その他の事情が考慮されることを規定したものである。

(イ)
第15条の「懲戒」とは、労働基準法・第89条第9号の「制裁」と同義であり、同条により、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び規定について就業規則に記載することが義務付けられている。

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解雇(第16条関係)

内容

(ア)
第16条は、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効になることを明らかにしたものである。なお、第16条は、法附則第2条による改正前の労働基準法・第18条の2と同内容である。

(イ)
法附則第2条による改正前の労働基準法・第18条の2については、「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明記したもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に即して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされており、これについては第16条においても同様である。

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期間の定めのある労働契約(第4章関係)

契約期間中の解雇(第17条1項関係)

内容

(ア)
第17条第1項は、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中は有期契約労働者を解雇することができないことを規定したものである。

(イ)
第17条の第1項の「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであるが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものである。

(ウ)
契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合であっても、当該事由に該当することをもって第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断される。

(エ)
第17条第1項は、「解雇することができない」旨を規定したものであることから、使用者が有期労働契約の契約期間中に労働者を解雇しようとする場合の根拠規定になるものではなく、使用者が当該解雇をしようとする場合は、従来どおり、民法・第628条が根拠規定となるものであり、「やむを得ない事由」があるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うものである。


契約期間についての配慮(第17条2項関係)

内容

(ア)
使用者が有期労働契約により労働者を使用する目的は、臨時的・一時的な業務の増加に対応するもの、一定期間を要する事業の完成のためのもの等様々であるが、第17条第2項は、当該目的に照らして必要以上に短い契約期間を設定し、その契約を反復して更新しないよう使用者は配慮しなければならないことを明らかにしたものである。

例えば、ある労働者について、使用者が一定の期間にわたり使用しようとする場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定期間を契約期間とする有期労働契約を締結するよう配慮しなければならない。

(イ)
第17条第2項の「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、同項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではない。

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有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(第18条関係)

内容

(ア)
法第18条第1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間 (以下 「通算契約期間」 という。) が5年を超える有期契約労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものである。

(イ)
法第18条第1項の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断される。

ただし、使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、法第18条第1項に基づき有期契約労働者が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利 (以下 「無期転換申込権」 という。)の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、同項の通算契約期間の計算上 「同一の使用者」 との労働契約が継続していると解される。なお、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について法第18条第1項の通算契約期間が計算される。

(ウ)
無期転換申込権は、「二以上の有期労働契約」 の通算契約期間が5年を超える場合、すなわち更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えている場合に生じるものである。したがって、労働基準法第14条第1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働契約が締結されている場合、一度も更新がないときは、法第18条第1項の要件を満たすことにはならない。

(エ)
無期転換申込権は、当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使することができる。

なお、無期転換申込権が生じている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に無期転換申込権を行使しなかった場合であっても、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が発生し、有期契約労働者は、更新後の有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期転換申込権を行使することが可能である。

(オ)
無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解される。

(カ)
法第18条第1項の規定による無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更するものであるが、同項の 「別段の定め」 をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能である。この 「別段の定め」 は、労働協約、就業規則及び個々の労働契約 (無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意) をいうものである。

この場合、無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない。なお、就業規則により別段の定めをする場合においては、法第18条の規定が、法第7条から第10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではない。

(キ)
有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約 (解雇) する必要があり、当該解雇が法第16条に規定する 「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」 には、権利濫用に該当するものとして無効となる。

また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり法第17条第1項の適用がある。なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用がある。

(ク)
有期労働契約の更新時に、所定労働日や始業終業時刻等の労働条件の定期的変更が行われていた場合に、無期労働契約への転換後も従前と同様に定期的にこれらの労働条件の変更を行うことができる旨の別段の定めをすることは差し支えないと解される。

また、無期労働契約に転換した後における解雇については、個々の事情により判断されるものであるが、一般的には、勤務地や職務が限定されている等労働条件や雇用管理がいわゆる正社員と大きく異なるような労働者については、こうした限定等の事情がない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われることにならないと解される。

(ケ)
法第18条第2項は、同条第1項の通算契約期間の計算に当たり、有期労働契約が不存在の期間が一定以上続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされること (いわゆる 「クーリング」 ) について規定したものである。

すなわち、同一の有期契約労働者と使用者との間で、間をおいて有期労働契約が再度締結された場合、その間の長さが次のいずれかに該当する場合には、法第18条第2項の空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間に算入されない(クーリングされる)こととなる。
① 6か月以上である場合。
② その直前の有期労働契約の契約期間 (複数の有期労働契約が間を置かずに連続している場合又は法第18条第2項の 「契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準」 に該当する場合にあっては、それらの有期労働契約の契約期間の合計) が1年未満の場合にあっては、その期間に2分の1を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間以上である場合。

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有期労働契約の更新等(第19条関係)

内容

(ア)
法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合 (同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合 (同条第2号) に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件 (契約期間を含む。) で成立する。

(イ)
法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理 (いわゆる雇止め法理) の内容や適用範囲を変更することなく規定したものである。

法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決 (最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決) の要件を規定したものである。

また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決 (最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決) の要件を規定したものである。

(ウ)
法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断される。

なお、法第19条第2号の 「満了時に」 は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」 における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものである。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解される。

(エ)
法第19条の 「更新の申込み」 及び 「締結の申込み」 は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよい。

また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の 「更新の申込み」 又は 「締結の申込み」 をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解される。

(オ)
法第19条の 「遅滞なく」 は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味である。

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期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(第20条関係)

内容

ア)
法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容 (労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものである。

したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して 「期間の定めがあること」 を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止する。

(イ)
法第20条の 「労働条件」 には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含する。

(ウ)
法第20条の 「同一の使用者」 は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断される。

(エ)
法第20条の 「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」 は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」 は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等 (配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。) の有無や範囲を指すものである。「その他の事情」 は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定される。

例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解される。

(オ)
法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものである。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解される。

(カ)
法第20条は、民事的効力のある規定である。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。また、法第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解される。

(キ)
法第20条に基づき民事訴訟が提起された場合の裁判上の主張立証については、有期契約労働者が労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける事実を主張立証し、他方で使用者が当該労働条件が期間の定めを理由とする合理的なものであることを基礎づける事実の主張立証を行うという形でなされ、同条の司法上の判断は、有期契約労働者及び使用者双方が主張立証を尽くした結果が総体としてなされるものであり、立証の負担が有期契約労働者側に一方的に負わされることにはならないと解される。

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雑則(第5章関係)の船員に関する特例(第18条関係)、適用除外(第19条関係)については省略。







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ご挨拶


人事コンサルタント・特定社会保険労務士の梶川です。大阪で人事コンサルティング事務所 オフィス ジャスト アイを運営しています。主な業務は採用や人事評価、人材育成などを支援する人材アセスメントと、社会保険労務士業務です。

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