人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

管理強化だけでは防げないコンプライアンス違反


企業の不祥事が明るみになり、経営陣が公の場で謝罪、釈明する光景が珍しくなくなった。こうした場面で必ず取り上げられるのがガバナンスコンプライアンスだ。

「ガバナンス」とは企業を統治する体制のことで、役員の暴走や不正行為、判断ミスを取締役会や社外取締役、各種の委員会、株主総会などがチェックし、事業運営における健全性や透明性を高めることを目的に整備される。「コンプライアンス」は法令遵守と訳され、企業が事業活動に関わる様々な法律に違反しないようにするもので、役員だけでなく管理職や一般社員も関わってくる。

ガバナンスとコンプライアンスはいずれも企業のリスク管理に関わっている。企業が直面するリスクには不正談合、価格カルテル、便乗値上げ、下請けいじめ、不正表示、過大広告、文書偽造、情報漏洩、有害・欠陥商品の製造・販売、環境汚染、横領、背任、脱税、粉飾決算、贈収賄、利益供与、長時間労働、過労死、セクハラ・パワハラ、残業代の未払い、心身の不調が原因の労働災害など多岐に渡る。






コンプライアンス対策に限界がある理由


現在、大企業では会社法によりリスク管理に対処するため「内部統制」を定めることが義務化されている。内部統制とは事業目的に沿って会社を組織的に運営するための経営管理体制のことで、リスクが顕在化しないようにし、万一、リクスが現実化した場合は拡大・拡散を最小限に留めるようにする。

だが、こうした内部統制を定めていても不祥事が続発している。そのため、企業はコンプライアンス強化を図るため、社員教育や管理・監視体制、社内ルールの拡充と徹底を図っているが、これが現場に疲労感をもたらしている。「○○はするな」「××をしろ」といったやたらと細かい指示やルールが多くなり、いわば箸の上げ下ろし一つにもマニュアルに従うことが求められ、この事が現場から活気や活力を奪っている。

さらに、コンプラアンス重視の姿勢がワークモチベーションを低下させている面もある。元来、法律やルールは性悪説に基づいている。不心得者がいるから監視をして、不正をしたら罰を与えるとする発想だ。モチベーションは信頼されて任され、自主性が容認されることで高揚する。組織の活力や社員のモチベーションを低下させても、不祥事が発生しないならまだしも、不正な行いは収まる気配がない。そのため、企業はさらにコンプライアンスの強化に走り、より一層、現場の活力やモチベーションが低下するという悪循環に陥っている。

従来のコンプライアンスのための教育研修や管理・監視の強化、社内ルールの制定や徹底といった対策は、直接的で即効性があるが、効果は限定的なものだ。そのため不正行為が発覚した直後などには有効な手法だが、これだけでは十分ではなく、より包括的な対策が求められる。

その理由としてコンプライアンスの捉え方が広がり、構造が多層化していることが挙げられる。図に示すように、現在、コンプライアンスは法令、社内規程、社会的要請の3層から成り立っている。





最も狭い範囲に法令があり、これを覆うように社内規程がある。そして、さらに外側には法律や社内ルールだけでカバーしきれない道徳観や倫理観、正義、公正(フェア)、品性、誠実さ、といった「社会的要請」がある。コンプライアンスを単に法令遵守と解釈していると社会の要請に対応できなくなる。



今後のコンプライアンス対策とは


多層化構造となったコンプライアンスに対応するには、不祥事が起こる背景にある3つの要因に焦点を当てるようにする。一つ目の要因は不正行為を行う機会、スキで、従来のコンプライアンス対策はこの機会撲滅を図ろうとしている。

2つ目の要因は不正行為に手を染める動機だ。多くの社員は已むに已まれぬ事情で不正行為に関わっている。典型的なのが過大な売上・利益目標や、納期・工期の短縮、コストダウンといった職務遂行上の負荷だ。3つ目の要因は会社や組織のためとか、長年の慣習、前任者からの申し送り、他社も含め皆やっている、といった不正行為の正当化だ。

コンプライアンスの包括的な対策は2つ目の動機と3つ目の正当化に対処する必要がある。動機に対しては過度な目標を強いることがない目標管理制度や、結果だけを重視する人事評価制度の見直し、マネジメントのあり方の再検討が求められる。目標には適切な負荷が求められるが、この適切さと過度の見極めを図ることが必要になる。そのためには、経営者や管理職が社内コミュニケーションを活発にさせ、風通しのよい組織を作ること、そしてメンバーの多様性を図り、多様な価値観を組織内に持ち込むことが求められる。

そして、正当化を防ぐためには、経営者や管理職が身をもって企業理念を体現し、行動規範の浸透を図るようにする。動機と正当化に取り組むことはコンプライアンス対策だけでなく、組織風土や企業体質の変革にも繋がる副次的な効果もある。

コンプライアンスの社会的要請の範囲はさらに広がることが予想されるため、今後は誰もが経験したことがない事態に直面する可能性がある。その際、どのような判断、意思決定を選択するかは企業理念や行動規範だけが頼りになる。コンプライアンスを法令遵守という理解にとどめず、業績の向上にもつなげる視点を持ち込むことが肝要だ。


2016/1/23






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