人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

人事評価のフィードバックを伝える際のポイント


大企業から中小企業へ転職した人が驚くことの一つが、人事評価のフィードバックが行われていないことだ。大企業では人事評価を行っている会社のうち、およそ8割以上で人事評価のフィードバックが行われている。

人事評価のフィードバックは人材を育成する役割を担っている。フィードバックがないと人事評価は査定の機能しか果たさないことになる。フィードバックを行わないなら、いっそ手間暇のかかる人事評価を廃止して、代わりに3段階程度の簡素な査定評価を行えば十分というケースもある。

人事評価のフィードバックの目的は、社員の能力を正しく見極め、それを引き出し発揮させることで人材の育成を図ると同時に、会社への貢献度を向上させることにある。フィードバックのプロセスでは、上司と部下が成果や課題を共有し、今後の行動目標や育成方針(部下から見れば成長プラン)を立てることを目指す。そして、この作業を通じて信頼関係の構築を図る。

中小企業でフィードバックが行われない理由の一つは、社内に経験者・体験者がいないため、何をすればよいか、具体的にどう進めればよいかわからない点が挙げられる。そこで、一般的に行われている人事評価のフィードバック面談の内幕をご紹介しよう。






準備する事と面談時の注意点


まず、上司は準備として人事評価の結果を見ながら面談で話す内容を整理する。どういった事実・情報に基づき評価をしたのか、面談で最も伝えたいことは何で、なぜそれを選んだのかをまとめ、ストーリーとして話せるようにする。伝えたいテーマは1~2つに絞り込む。そしてフィードバックを行う時間と場所を確保する。時間は部下1人につき、30分~1時間を目安にする。場所は会議室のように人目が気にならず、他人に話を聞かれることのないような場所で行う。

フィードバック面談で部下の納得を得るためには、無責任な結果を伝えないこと、そして不誠実な態度で接することがないように注意する。上司は部下の数だけフィードバックを行うため、一つのフィードバックは数あるうちの一つだが、部下にとってフィードバックは唯一無二のものなので、上司の何気ない一言や、事実の誤認・見落とし、思い違いが人事評価と上司に対する信頼を根底から揺さぶることになりかねない。

フィードバック面談の流れは、まず、今期の部下自身の自己評価を聞くことから始める。この時、部下の話は途中で遮らずとにかく最後まで聴く。時には身勝手な思い込みや勘違いな言い分に口を出したくなるが、人事評価と部下の自己評価に大きな差がある場合は、この後、対処が必要になるので、ここは忍耐の上しっかり情報を収集しておく。

部下の自己評価を聞き終えた後、上司は人事評価の結果を伝えるが、その際、実際の評価シートを見せるかどうかは会社によって扱いが異なる。現物の評価シートは使えないと判断した会社では、フィードバック専用の評価シートを用いることもある。

上司が評価を伝える際は、まず部下の成果についてプラスと評価した点を伝える。プラスの評価から始めることで、部下はフィードバックを受け入れやすい心理になる。プラスの評価が見当たらないという場合でも、まったく何もないことは考えにくい。部下の個性や持ち味はプラスになるので、程度の差はあれ、何らかのプラスの点があるはずだ。

プラス評価の後、マイナス評価とした点を説明する。これはほとんどの場合、事前に準備しておいた面談で最も伝えたい内容と一致する。ここで注意するのは、マイナスの評価は上司が普段から何度も指摘していることや、口やかましく指導している内容と整合性が取れていることだ。部下から見て唐突に、これまで見たことも聞いたこともない評価基準や評価のモノサシが出てくるのは厳禁だ。部下にすれば「そんなモノサシを使うなら始めから言ってくれ」「なぜ日頃から指摘しないのか」といったように上司に対する不信感が一気に強まることになる。

また、マイナスの評価を伝える際は、具体的な事実や観察された事例を引き合いに出し、その情報をどのように解釈し、評価へ繋げたかを説明する。具体的な事実を指摘しないと、部下は何を根拠にマイナスの評価がなされたのかがわからない。事実を評価に繋げた解釈・受け止めを説明するには、上司の人事評価制度に対する理解が必要になる。この理解が欠如していると、事実の解釈が上司の主観や好みによるものと判断され、信頼関係の毀損につながりかねない。



 フィードバックで人を育てましょう



締め括りで話し合う事


プラスとマイナスの評価を伝え終わると、最後の段階として、今後の行動や成長、キャリア開発に繋げるための話し合いに進む。評価がマイナスの点については、①マイナスの程度・度合を収縮させる方法と、②マイナスを矯正せず、プラスに転じる途を探るやり方がある。また、③プラスの点を伸長させることで、マイナスを打ち消す方策もある。一方で、④プラスやマイナスという過去の事実をベースに成長や育成を考えるのではなく、将来のキャリアをゴールに見立てて、今後何が必要なのかを考えるやり方もある。

業務の遂行に関する改善策と異なり、人の成長や育成についての正解は誰も持ち合わせていない。上司は自分の手で部下を成長させるという意気込みよりも、部下が自分で成長軌道に乗れるようになるため、どのような支援を行えばよいかを話し合いで探るようにする。

こうして行われるフィードバック面談で必要なスキルは、①情報収集力・観察力、②収集・観察された複数の事実を一つの話にまとめる力、③言葉使い・話し方といった表現力だ。これらを習得するには、日頃からフィードバックを意識し、日常起こる出来事を面談で最も伝えたいテーマに設定し、頭の中でシミュレーションしてみることだ。テーマになる材料は事欠かないはずだ。


【関連ページ①】 ワークモチベーションの着眼点 フィードバック編
【関連ページ②】 人材を活かして育てるキーワード・人事評価


2016/5/24






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