人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

働き方を大きく変える無期転換ルール



現在の我が国の働き方の特徴として、雇用の2極化を指摘する声がある。雇用契約に期間に定めがない、いわゆる正社員は雇用は安定しているが、フルタイムで働くことに加え、残業や休日出勤が求められ、会社が命じれば国内外を問わずどこへでも異動しなければならない。これらに違反すると懲戒処分の対象になり、最悪の場合は解雇される。

一方、フルタイム勤務や残業は出来ないとか、転勤が必要な異動や配置転換には応じられないという人は、非正規雇用で働くことになる。自分の生活やライフスタイルに応じた働き方ができる反面、雇用は安定せず、収入も低くなりがちだ。

このように日本で会社員として働くには選択肢が2つしかない。この2極化による問題を解決するのが、限定正社員という働き方だ。限定正社員は雇用契約に期間に定めがなく、希望すれば定年まで雇用される。そして働く時間や場所・地域、職種などが限定される。短時間や隔日勤務で働く、採用された店舗や工場、営業所などからの人事異動がない、特定の職務から別の職務へ配置替えがない、といった正社員にはない特徴がある。

昨今は人手不足が著しい業種・業界を中心に、人員確保のため限定正社員制度を導入する企業が増えている。「ウチは規模が小さいから、限定正社員制度は関係ない」と思っていたら、ある日突然、あなたの会社にも限定正社員が登場する可能性がある。






有期雇用が無期雇用に転換される


平成24年に労働契約法の18条が改正され、有期雇用契約が反復更新され5年が経過すると、有期雇用契約で働く非正規雇用の労働者には、雇用契約を無期にすることを会社に申し込む権利が付与されることになった。労働者がこの申込みをすると会社は拒むことができず、雇用契約はそれまでの有期雇用から無期雇用に強制的に転換される。厚生労働省は、これを無期転換ルールと称している。

ここで重要なのが無期雇用にすることは必ずしも正社員にする訳ではない点だ。無期雇用に転じた後の労働条件は、特別何もしなければ、従来の労働条件がそのまま引き継がれ、雇用契約期間だけが有期から無期へ転換される。労働時間や賃金はこれまでと変わらないまま、1年とか半年ごとに行われていた雇用契約の更新手続きがなくなるだけだ。このため短時間のパート社員や特定の職務だけを担う契約社員などは、これまでと同じ職場で、同じ仕事・給料・労働時間のまま、雇用契約の期間だけが定めがないという、いわゆる限定正社員になる。

無期転換ルールの例外は2つあり、一つは年収が1075万円以上の高度専門職の労働者が5年を超えるプロジェクトに携わる場合で、もう一つは、定年後にこれまでの会社で引き続き継続雇用される高年齢労働者の場合だ。これら2つのケースでは、有期雇用契約期間が5年を経過しても無期雇用に転換する権利は生じない。ただし、いずれの場合も事前に都道府県の労働局長の認定を受ける必要がある。

また、反復更新される有期雇用の期間中に6カ月以上の空白期間があると、空白期間の前後の労働契約は5年のカウントからは除外される(クーリング)。これは特に派遣で働く労働者が、派遣元の会社と契約する際にしばしば起こると思われる。

反復更新の5年のカウントが始まるのは平成25年4月1日からとされ、この日より前の有期労働契約の期間は5年のカウントの対象外になる。仮に有期雇用の契約が1年ごとだとすると、平成30年4月1日以後に無期転換の申込みをする非正規社員が登場する可能性がある。


無期転換ルールの仕組みを示した図 class=
(厚生労働省作成のリーフレットより)



無期転換ルールへの対策


無期転換ルールにより限定正社員が登場すると、企業の人事管理は大きな変化に直面する。会社の規模を問わず、限定正社員というこれまでにない雇用区分への対応が迫られる。

もっとも限定正社員を受け入れる、あるいは容認するのであれば、さほどの困難さはない。対応が必要になるのは、定年の定め(=多くの会社では正社員以外には定年の定めが無いため)や、退職金を計算するにあたっての勤続年数の取扱い、限定正社員から正社員への登用の有無、逆に正社員から限定正社員への移行の可否、といったぐらいだ。

だが、自社が本当に限定正社員の費用負担に耐えられるのかは真剣に検討する必要がある。幸い、現在は人手不足で、今後も労働力人口の不足は続く。だが経済はグローバル化が進み、今後も世界のどこかで定期的に大なり小なりのバブルが発生し、それがはじけることによる影響が我が国に及ぶことは確実だ。日本企業は不況の際には、非正規雇用の社員を雇い止めにして人員を調整してきた。限定正社員を受け入れることは、こうした雇用調整機能を手放すことを意味する。

さらに正社員のように長時間労働や人事異動・配置転換ができない限定正社員を65歳まで、今後の情勢を鑑みると70歳まで継続雇用する必要がある。不況だからといって限定正社員を解雇しようとすると、正社員と同じように整理解雇の4要件が適用されるため、人員調整は簡単にできなくなる。

限定正社員の受け入れが無理なら、限定正社員ではなく、フルタイムで働き、人事異動や配置転換もある従来の正社員と同じ正社員として受け入れるというやり方もある。有期雇用の5年間に人事評価を行い正社員への登用を図る、もしくは無期転換後の労働条件について「別段の定め」を設け、従来の正社員と同じ労働条件で働ける有期雇用契約の社員だけを正社員として受け入れる。

無期転換ルールを定めた労働契約法の18条は、無期転換後の労働条件は「別段の定め」がある部分を除いて、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件とする、と定められている。この別段の定めとは、労働協約、就業規則、個別の労働契約のことを指す。そこで、例えば就業規則に「無期転換後の労働条件は正社員就業規則による」と定めれば、無期転換後の労働条件は正社員と同じになる。また、この「別段の定め」の内容をアレンジすることで、限定色を薄めた労働条件にすることも可能になる。


【お知らせ】厚生労働省が無期転換ポータルサイトを開設しました。

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雇い止めには注意が必要


限定正社員も無理だし、正社員化も難しいとなると、有期雇用の労働者は最長5年で契約の更新を打切り、別の労働者に入れ替えていくしか方法がない。ここで問題になるのが有期雇用契約の更新打切り、いわゆる雇い止めだ。現在は労働契約法の19条によって雇い止めについて法制化が図られている。

それによると、有期雇用の労働者が更新の申込みを行い会社側がこれを拒否した場合、その雇い止めが19条に定める要件に該当すれば、雇い止めは解雇と同じ扱いとなり(=解雇濫用法理の類推適用)、雇い止めに客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であると認められない限り、会社は従前の労働契約と同じ労働条件で更新の申し込みを承諾したものとみなされる。

19条が定める要件は2つあり、一つは労働契約の期間満了時の更新手続きが杜撰で、正社員とほとんど変わらないような実態があること。そして2つ目は、有期雇用の労働者が期間満了後も契約が更新されることに合理的な期待を抱くことが当然と思われるような慣行や言動が会社側にあったこと。2つのいずれかが認められる場合は、雇い止めは解雇と同じ扱いになる。

 【関連ページ】雇い止めを巡る裁判例 本田技研工業事件


有期雇用の労働者を5年で入れ替えるのであれば、契約当初から労働契約書に「この雇用契約は5年を超えない範囲で更新する場合がある」とし、上限規定を明示しておくとよい。現在の有期雇用契約を更新する際に、新たに上限規定や更新回数の限度を設けることの可否は裁判でも判断は分かれている。実際の裁判で19条が適用されるか否かは、有期雇用労働者の担ってきた業務内容、更新回数、通算の勤務年数、更新の手続き、雇用継続や長期勤務についての経営者や現場責任者の言動、他の有期雇用労働者の更新の状況などが総合的に検討される。

平成27年の労働者派遣法の改正により、派遣労働者は3年で入れ替わるようになり、無期転換ルールにより、直接雇用の非正規労働者は5年で入れ替わることになる。これらの改正により有期の雇用契約は一時的・臨時的な仕事に労働者を使用する場合に限って使われるもの、という法律上の位置づけが明確になった。同じ労働者をずっと非正規社員のまま使い続けるという人事管理は終わりを迎えたことになる。


2016/6/24


お薦めの本
「有期・パート・派遣社員の法律実務」の表紙
有期・パート・派遣社員の法律実務
(立ち読みできます)


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