人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

能力給と職務給の違いが働き方を左右する


最近は各方面で日本企業の人事が限界に来ていることが指摘される。少子高齢化による人件費の高騰や成長産業へ優秀な人材が移動しないこと、多様な人材を活かせないことから生じるイノベーションの不発、やり直し・出直しが不利になる職業人生など、枚挙に暇がない。

また正規・非正規という雇用形態の違いによる処遇の格差も深刻で、政府はこの格差を諸外国並にするためガイドラインの策定と、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の改正を検討している。

【追加補正・2018年8月】2018年6月に成立した「働き方改革関連法」によって、これら3つの法律は改正されました。詳しい解説はこちら


こうした日本企業が抱える人事の問題の背後にあるのが、日本と諸外国との賃金に対する考え方の違いだ。日本の会社の賃金の決め方は世界的に見ても珍しく、人を評価することで基本給が決まる。かつては年齢給や勤続給といった属人給が主流であり、現在は職務遂行能力を評価した能力給(職能資格制度が導入されている会社では職能給と称される)が主役の座を占めている。

一方、欧米を中心とする先進諸国や新興国では、仕事によって基本給が決まるという職務給が主流だ。仕事の難易度や経営に対する貢献度を評価したジョブサイズや、ランクごとに分けたポジションによって基本給が決まる。就くべき仕事、やるべき仕事が決まれば、社員の能力や経験とは関係なく自動的に賃金が決まる。

日本では職務給に馴染みがないためイメージしづらいが、典型的な職務給はスーパーのパートタイマーや居酒屋のアルバイトだ。接客・レジ、厨房、品出しといった仕事によって時給が決まる。個人の開業医も一種の職務給で、同じ医療行為を行えばベテラン医師も新人医師にも同じ診療報酬が支払われる。職務給は同じ仕事をしていれば同じ収入になることから、同一労働・同一賃金になる傾向が強い。



給料の決め方の違いは職業人生も左右する


能力給と職務給の違いが端的に現れるのが人事異動だ。能力給は社員本人に値段が付いているようなものだから、異動によって部署や仕事が変わっても給料は変わらない。このため人事異動がやりやすい。これに対し職務給は異動によって職務が変われば給料が変わるため、人事異動が難しい。

人事異動に対する考え方の違いが職業人生も左右する。能力給では社員は人事異動によって社内のさまざまな仕事を経験し、会社内という閉じた社会で最適化する。そのため転職するとキャリアはリセットされてしまい、新しい会社で一からスタートせざるを得なくなる。それが不利になることが多いため、多くの人は今の会社に出来るだけ留まろうとする。

一方、職務給では会社は変わっても自分が携わる仕事は変わらないため、その道のプロになる傾向が強い。転職する新しい会社も人を評価するのではなく、プロとしてどれだけの経験を有し、力を発揮するかを評価するため、転職が不利に作用することもない。

昇格についても違いがある。能力給は本人の潜在的な職務遂行能力を評価するため、人事評価による定期昇給があるが、職務給では上位のポジションに就くか、現在担っている仕事の価値や重要性が高まることによって昇給する。だが一つの職務等級に賃金の幅を設けた「範囲職務給」(レンジシート)を取っていると、成績を評価した人事評価による昇給がある。

また能力給は人を評価の中心に据えるため、経営と賃金の関係が希薄になりがちだ。一方、職務給は仕事が評価の中心にあるため、会社の経営方針や事業戦略が大きく変われば、それに応じて職務のジョブサイズが変わり賃金も上下する。経営と賃金の連動性が強く、現時点で重要とされる仕事には高い賃金が支払われ、価値が低下した仕事に就いている社員の給料は低下する。このため社員が高齢化することで人件費が高騰するといった問題とは縁がない。






能力給も職務給も見直しが進む


このように能力給と職務給は大きな違いがあるが、最近は共に問題が生じるようになり、見直しが進んでいる。日本企業では能力給に加え、役職や階層ごとに求められる役割や役回りを評価する役割給の導入が進んでいる。日本生産性本部が2013年に上場企業を対象に行った「第14回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」では、管理職階層に部分的にでも「役割給」を取り入れている会社の割合は76%にまで増えている(下記の図表5)。同じ期間における非管理職階層への導入も58%へ上昇している。



第14回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」(PDF)


一方、職務給も社内の仕事が細分化され職務等級の数が膨れ上がり、等級制度の維持管理に手間がかかる、組織体制の見直しに応じた対応が難しい、社内で人材が育たない、といった問題が顕在化し始めた。このため90年頃から、複数の職務等級を一つにまとめ等級の数を減らし、一つの職務等級の中で賃金が上下する幅を大きくする「ブロードバンド化」が進み、仕事を評価することに加え、実際の行動を評価するという「コンピテンシー評価」を取り入れ始めている。

役割給もコンピテンシー評価も、実際にその人が発揮したり、果たしている行動を評価して賃金を決めようとするもので、日本の能力給と諸外国の職務給は互いにその距離を縮めようとしていることになる。


役割給の仕組みとは

役割給における「役割」とは、職種や階層ごとに担当する仕事をざっくりと区分けしたもので、会社が期待する責任の大きさや、経営に対する貢献の度合、組織に与える影響の強さ、職務を遂行する際の難易度などによって等級区分を設定する。人を評価して賃金を支払うのではなく、果たすべき役割の大きさや度合によって賃金が決まるという職務給に近い考え方がベースになっている。

人事評価では目標をどれだけ達成したかという「成果責任」と、求められる行動をどれだけ発揮したかという「行動責任」を評価する。評価の結果によっては降級や降格がある。

そして、会社の経営方針や組織体制の変更によっても賃金が上下することがある。自分が属する組織やポジション、担っている役割の重要度が上がれば、本人とは無関係に給料が上がり、逆の場合は給料が下がる。役割給は職務給と同じように、本人に責めがないのに会社の事情で給料が下がるという点が能力給とは全く違う世界観と言える。この点が問題になり、役割給を導入する際に社内で理解が得られない、あるいは導入しても運用で支障をきたすことが多い。

また基本給を能力給と役割給の2本立てで構成している場合は、異なる2つの考え方で給料が決まることになる。そのため、どうしても長年、慣れ親しんできた人を評価する能力給の影響が色濃くなってしまうという問題がある。能力給と役割給を併用する場合は、管理職階層は役割給、一般社員は能力給といったように、仕事に対して給料が支払われる人と、人物評価によって給料が支払われる人を区分けする方法がわかりやすく、収まりがよい。



役割の大きさを評価する方法


役割給を導入するには、役割の大きさを評価することが必要になるが、その際に使えるツールとして学習院大学経済経営研究所が賃金の専門家を集めて開発したペイ・サーベイ・システム(pay survey system)がある。営業や開発、生産といった職種と、部長、課長、リーダーといった階層ごとに自社の仕事を5段階で評価してポイント化する。評価する役割は、①人材の代替性、②革新性、③専門性、④裁量度、⑤社内の対人関係の複雑度、⑥社外の対人関係の複雑度、⑦問題解決の困難度、⑧経営への影響度の8項目だ(下図)



中小企業のモデル賃金』(PDF)より抜粋


「ペイ・サーベイ・システム」を使って社内の仕事を部署と階層ごとにポイント化できれば、現在の賃金総額を総ポイントで割って1ポイント当たりの賃金単価を求める。後は部門と階層ごとに決まったポイントに賃金単価を掛ければ、賃金総額を変えることなく能力給を役割給に切り替えることができる。役割給を部長や課長といった役職者にだけ適用するのであれば、現在の役職者だけを対象にして、この作業を行えばよい。

「ペイ・サーベイ・システム」は厚生労働省も各種のリーフレットで紹介しており、役割給のおよその仕組みを理解する上でも有効なツールと言える。


【参考リンク】
無料ツール : 役割給用・役割等級判定表


2016/12/21






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