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リーダーシップ研究の成果をたどる旅



部下を持つ、あるいは組織を率いる立場に就くと否応なく求められるのがリーダーシップです。しかしリーダーシップが人事評価の評価項目として取り入れられることはあまりありません。リーダーシップは複数の評価要素が混在しているため、定義が曖昧になりがちなためです。

同じようにリーダーシップの研究にも様々なアプローチがあり、未だに本質が解明されていないのが現状です。今回はリーダーシップについての学術的な研究成果をたどる旅に出ることにしましょう。


特性理論の挫折と復活


リーダーシップの研究が始まったのは1940年代~1960年代にかけてであり、リーダーシップを持ち合わせていると思われる人物に共通する要因を見つけようとする特性理論から始まりました。多くの研究者たちが歴史上の偉人や政治家、思想家などに共通する要因を見つけようと試みました。ですが、いずれの研究もリーダーシップに共通する要因を特定するに至らず、「特性理論」は失敗に終わったと思われました。

しかし、90年代から2000年代になると、人間のパーソナリティの研究と統計分析の手法が進歩し、「特性理論」は息を吹き返します。一例を挙げると、パーソナリティの基礎となる5つの要素(=ビッグファイブ)が特定され、過去の研究成果の統計分析から、リーダーたちに共通する性格要因が特定されました。
ビッグファイブのうち、リーダーシップにとって最も重要な要素は「外向性」(extraversion)であり、次いで「誠実さ」(Conscientiousness)と「経験に対する開放性」(Openness to Experience)が続きます。残りの「人との調和性」(Agreeableness)と「感情安定性」(Neuroticism)はさほど重要ではないという結果になりました。

「特性理論」は、リーダーシップにおける重要な性格上の特徴をある程度明らかにしましたが、「外交性」を備えた人が全員リーダーシップを発揮するとは限らないように、性格要素はリーダーの出現や存在を予測する上での判断材料となるものの、あくまで備えていることがより適しているという程度にとどまります。






行動理論と条件適合理論の登場


「特性理論」が息を吹き返したのと同じ時期、リーダーシップの研究はリーダーに共通する行動に注目する方向へ進み始めます。焦点が性格のような見えない要因から、行動という観察できる要因に移ることで、より客観的な分析が可能になることが期待されました。この際に取り上げられた行動は、しばしば2つの軸に大別されることがあります。一つは、「仕事中心」「構造設定」「パフォーマンス」などと呼ばれる仕事に直接関わる行動、もう一つは「従業員中心」「配慮行動」「メンテナンス」といった組織内の人間関係に関する行動です。

リーダーの行動に注目した説は行動理論と呼ばれ、統計分析の結果、仕事と人間関係という両方の行動が組織の業績や部下の満足度に影響を与えていることが明らかになりました。この結果、リーダーシップには仕事を差配する行動とメンバーとの人間関係を良好にすることが望ましいという常識的な結論に至りました。

しかし実際の経営やビジネスの場面では、仕事に関する行動と人間関係に配慮した行動の使い分けが求められます。これを踏まえ、リーダーシップの研究はリーダーその人に注目するだけでなく、周囲の状況や環境要因も考慮すべきではないかという条件適合理論が浮上してきます。

この際に取り上げられる状況や環境には、①仕事の定型・非定型の度合、②部下との人間関係の良し悪し、③リーダーの権威・権力の強さの程度、④部下の能力レベルなどがあります。リーダーシップの有効性を決めるのはリーダー本人がいかにあるべきかではなく、リーダーが置かれた状況によって最も適した行動を選択できるかどうかによって決まるということになります。統計分析の中には、リーダー本人よりも周囲の状況がリーダーシップの有効性を左右する度合が大きいという結論になったものもあります。

「条件適合理論」を踏まえ、部下との人間関係についてさらに別の角度からアプローチした成果がLMX理論(Leader Member eXchange)です。組織内ではリーダーと部下との間で「社会的な交換」が行われており、リーダーシップの本質はリーダーと部下との間で成り立つ一種の取引関係であるとされます。

リーダーは高い業績をもたらし、それにより部下に高い報酬を与えます。一方、部下はリーダーに対し地位や尊敬、影響力の増大などを与えます。対人関係の本質は相互関係にあり、互いに報酬を最大にし、費用を最小にしようとします。「LMX理論」によれば、リーダーシップの有効性はリーダーと部下の間の関係を良好なものにして、円滑な「社会的な交換」が行われるか否かで決まるとされます。



リーダーシップの有効性は上司その人よりも、外部との関係性で決まる



変革的リーダーシップ研究とは


1980年以降になるとインターネットの普及に伴い、会社組織を取り巻く状況が加速度的に変化するようになります。企業が価格競争に巻き込まれるケースや製品開発競争に遅れを取る、技術開発が既存の製品・サービスの市場価値を喪失させるといった事態が日常茶飯事になり、急激な業績の悪化に見舞われ、時には存続が危ぶまれるといった事態も頻発します。

こうした中、一部の企業では卓越したリーダーによる企業の変革や再生の試みが功を奏し、会社を立て直す事例も見られました。これらのリーダーたちは会社のそれまでの価値観や秩序を変革し、新しい意味づけの与えていたことから、リーダーによる会社・組織の変革に注目するリーダーシップ研究が相次ぎます。これらは変革的リーダーシップカリスマリーダーシップと呼ばれています。

これらのリーダーシップに共通しているのは、①極めて高い業績達成目標を指向する、②シンボルを掲げ、社員の心を動かす物語を語り、自らの訴えを浸透させる、③部下たちに高いモチベーションと目標達成を求めることです。従来のリーダーシップ研究が現在の状況を踏まえ考察されていたのに対し、「変革的リーダーシップ」や「カリスマリーダーシップ」では将来や未来といった時間軸の視点が加わわります。カリスマ的なリーダーによるリーダーシップの成果についての統計分析では、部下の努力や職務満足度、人事評価、企業業績などに一定の効果をもたらしていることが明らかにされています。

「条件適合理論」や「LMX理論」が、リーダーシップはリーダーその人よりも、周囲の状況や環境との関係が重要であるとしたのに対し、「変革的リーダーシップ」や「カリスマリーダーシップ」では、「特性理論」や「行動理論」のようにリーダーに注目した研究と言えます。

リーダーシップの研究が期待されるのは、リーダーシップを発揮する人材の発掘や開発の必要性が日に日に高まっているからに他なりません。リーダーシップの本質が明らかにならないと、リーダーシップの開発手法も定まりません。

リーダーシップの開発のためには、リーダーとして現場での実地の経験、それも失敗による挫折や修羅場といった過酷な体験が欠かせないことは多くの関係者の意見は一致しています。しかし経験から学び成長を促すという点では、リーダーの育成に限らず人材育成全般に渡って共通する手法です(経験学習の詳細はこちら)。リーダーシップの開発に適した経験からの学びとは何かが明らかになることが待ち望まれます。


2018/7/22






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