人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

働きがいのある職場を作るための3つのポイント



採用難が続いていることに加え、現役社員の退職を防ぐためにも、長時間労働の削減を中心にした「働き方改革」が進行中です。職場の労働環境の改善が進むのは望ましいことですが、働きやすい職場作りだけを進めていると、居心地が良いだけのぬるま湯的な会社になりかねません。働きやすい職場が企業の業績向上に繋がるのが本来のあるべき姿であり、そのためには「働きやすい職場作り」と「働きがいのある職場作り」を同時並行で進める必要があります。


働きがいのある職場に見られる特徴とは


「働きやすさ」と「働きがい」を考える上で役に立つのが、ハーズバーグが明らかにした 動機付け衛生理論 です。ハーズバーグは様々な会社の従業員に、どんな時にやる気が高まったのか、逆にやる気が低下したのはどんな状況だったのかについて聞き取り調査を行いました。

その結果、やる気を高める「満足要因」には、達成感や承認、仕事そのもの、責任などがあり、これらを「動機づけ要因」としました。一方、やる気が下がるという「不満要因」には、会社の方針・管理、監督、監督者との関係、労働条件,給与などがあり、これらを「衛生要因」としました。

ハーズバーグは仕事への満足を生み出す「動機づけ要因」と不満を高める「衛生要因」は別物であり、「衛生要因」を改善しても不満が減るだけで、満足度を高めることにはならないと主張しました。現在、多くの会社で推進されている働き方改革は「衛生要因」を改善しようとする試みであり、働きがいのある職場づくりのためには「動機づけ要因」に注目する必要があります。

「動機づけ要因」に関わる取り組みとしては、以下の3つが挙げられます。

  1. 評価されフィードバックが行われること
  2. キャリアパスが示され、能力・スキルアップが図られ、成長実感が得られること
  3. 能力や意欲に見合った仕事ができること


なお、これら3つは互いに影響し合う関係にあります。評価が行われることで、実力や能力、意欲に見合った仕事に就くという、いわゆる適材適所が図られます。そして評価のフィードバックは能力やスキルアップを図ることに繋がります。また現在のレベルにマッチした仕事に満足するだけでなく、一段高いレベルの仕事に挑戦してみることで、能力・スキルアップが図られ、成長実感を得ることができます。





「動機づけ要因」に注目し「働きがいのある職場づくり」を進めながら、それと同時並行で「衛生要因」である「働きやすい職場づくり」を目指すとよいでしょう。

次に、そのための方法を、それぞれのポイントに触れながら見ていきましょう。


評価のフィードバック


部下は、評価のフィードバックが行われ、良かった点を誉められることで自信がつき、「有能感」や「自己効力感」が高まります。また自分が誰かの役に立っているという「貢献感」は組織との一体感、周囲の人たちとの連帯感をもたらします。一方、仕事を進める上での至らない点や物足りない点を指摘されることにより、今後の取り組むべき課題がわかり、成長に向けた道筋が見えてきます。このように評価とフィードバックは「働きがいのある職場」をもたらします。

フィードバックの際、上司の方は評価に至った具体的な事実を取り上げて話すようにします。評価の根拠になる事実を示さないと、部下は印象や思い込みによる評価と受け取ってしまい、せっかくのフィードバックが納得感をもたらさず、活かされません。

そして、フィードバックでは「YOUメッセージ」ではなく、「Iメッセージ」を意識して話します。評価を伝える際、「あなたは・・・」「君は・・・」といった「YOUメッセージ」で話すと、批判的に受け止められやすいため、「私は〇〇と思った」「私には〇〇と映った」といったように主語を「私=I」にすることで、会話に感情が入り、心情を通じて行動の変化を促すことができます。

評価やフィードバックは、人事評価制度がないという会社でも行うことはできます。年に1度、あるいは半年に1度、経営者・管理職は部下と1対1で面談し、この間の仕事ぶりについての評価を伝えます。

「働きやすさ」との関係では、評価を賃金に反映させることで、世間並の賃金が意識され、給与水準の適正化が図られます。そしてバラマキではなく、何らかの人事ポリシー(能力重視、成果重視など)に基づき処遇が決まるようになります。またフィードバックにより社内のコミュニケーションが円滑になります。これらはいずれも「働きやすい職場」をもたらします。






キャリアパスを示す


キャリアパスを示すことは、中堅若手社員に広まっている成長願望に応えることになり、「働きがいのある職場づくり」に繋がります。

健康寿命が年々長くなり、生涯現役で働くという職業生活が前提になりつつあります。中堅若手社員は将来の転職も視野に入れ、今の会社でどれだけ成長できるのかという点に大きな関心を抱いています。キャリアパスが示されることで、キャリアアップの道筋が見え、将来不安が解消されます。これは人材の流出を防ぐという「リテンション対策」にもなります。

キャリアパスを示すと同時に、次のような施策は「働きやすい職場」をもたらします。①正社員以外の多様な雇用形態を用意する、②育児や介護で退職した社員の再復帰を容認する、③副業・兼業を推進する、④学び直し(リカレント教育)のための長期の休職ができる、⑤年齢や勤続年数といった年功に応じた処遇ではなく、仕事や職務で処遇される人事制度

そして企業は社員にキャリアパスを示すだけでなく、会社のキャリアパスとも言える、将来に向けた戦略や方向性を明らかにする必要があります。戦略や方向性は会社のビジョンや理念に沿っていることが大切ですが、ビジョンや理念はともすればお題目の羅列になりがちです。そこで物語やストーリー、エピソードといった形で伝えると社員の印象に残りやすくなります。

会社の進むべき方向を明らかにし、拠って立つ基盤の浸透を図ることが、社内に連帯感や一体感を生み、「働きやすい職場」をもたらします。


能力や意欲に見合った仕事


社員が能力や意欲に見合った仕事ができるようにするには、「Will」「Must」「Can」から成る3つの輪のモデル(下図)が役立ちます。「Will」は自分の意思、つまりやりたいと思うこと、「Must」は会社から見てやってもらわなければならないこと、「Can」は能力やスキルから見て、社員ができることです。会社や上司は部下の3つの輪が重なる面積を大きくするよう心がけます。






リクルートグループでは、このモデルを使った「Will・Can・Mustシート」による人材開発を行っています。最初に部下が仕事を通じてやりたいこと(Will)をまとめます。そして6カ月に1度のペースで上司と面談し、「Can」である自分の活かせる強みや克服すべき課題を確認し、何をなすべきかという「Must」を考えます。ここで大切なのは「Can」を通じて「Must」を行うことが「Will」に繋がるという納得感を得るようにすることです。

「働きやすい職場づくり」のためには、3つの輪のモデルを活かしながら、社員がやりたい仕事に就けるような仕組みづくりを検討します。具体的には①異動の希望を申告する「自己申告制度」や、②一定の年数が経過すれば他部署への異動を認める「FA制度」、③社内の仕事をプロジェクトで進めるようにして、自発的に参加者を募る仕組みなどがあります。

ただし、現在の自分がやりたい仕事が将来の自分にマッチしたものなのかは不透明です。最初は気乗りしなかった仕事が、次第におもしろくなり、やがて生涯の仕事になったという例は数知れません。また実力や能力に見合った仕事でも、現在のレベルにマッチした仕事をしているだけでは成長できません。今のレベルを上回る課題に取り組み、能力のストレッチ(引き伸ばし)を図る必要があります。

そこで最も身近にある仕組みとして「目標管理制度」(MBO)を活用します。「目標管理制度」を業績評価として用いるだけでなく、難度の高い目標を設定し、負荷をかけることで成長実感に繋げるようにします。

時折、難度の高い目標に挑戦することに躊躇する人がいます。先天的な性格特性による場合もありますが、後天的に経験による思考の枠やクセから 学習性無力感 に陥っているケースもあります。過去に目標管理制度がノルマ管理にように運用され、過大な目標を与えられ未達が続いていたりすると、目標は達成できないものということを学習し、無力感に陥ります。

「学習性無力感」を脱するためには、①設定する目標に強い動機づけがなされるようにすること、そして②周囲からの期待があること、③行動によって結果が強化されているという「随伴性」を理解し、それを打破するため、小さな成功を積み重ね、その中から自分なりの勝ちパターンや上手くいくセオリーを身に付けるようにします。①から③は人材育成にも直接関わってくる話です。


2018/11/11






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