人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

平成31年4月に改正施行される労働安全衛生法



働き方改革に関する一連の法律改正の中ではあまり注目されていませんが、労働安全衛生法も改正され、平成31年(2019年)の4月から施行されます。このページでは改正された労働安全衛生法の概要をお伝えします。

なお今回の改正のうち産業医に関する箇所が関係するのは産業医の選任が必要な常時50人以上の労働者を使用する規模の会社や事業場になります。この常時50人にはパートタイマーやアルバイト、自社と直接雇用契約関係にない請負・派遣労働者も臨時雇いでない限り含まれます。一方、医師による面接指導の改正については50人未満の会社・事業場も対象になります。


情報提供義務と面接指導の強化


今回の労働安全衛生法の改正の趣旨は、長時間労働やメンタルヘルス不調の労働者を見逃さないようにするため、産業医による面接指導や健康相談が確実に行われるようにする一方で、産業医の独立性や中立性を高め、効果的な活動ができる環境を整備するためとされています。

そこでまず会社は産業医への情報提供が義務化されました。この情報とは以下の3つとされています。

  1. 健康診断実施後の措置や長時間労働者に対する医師の面接指導後の措置、ストレスチェック後に行われた医師の面接指導後の措置(措置を講じなかった場合はその旨と理由
  2. 1週間の労働時間が40時間を超えて労働させた場合の労働時間が1カ月80時間を超えた労働者の氏名とその者の労働時間
  3. その他、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として、作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜労働の回数・時間などのうち、産業医が必要と認める情報


この2の労働者の氏名と労働時間は、該当者がいない場合もその旨を提供する必要があります。そのため実際は毎月1回、会社は産業医に労働者の労働時間についての情報を提供することになります。そして2の要件に該当した労働者は後述する医師による面接指導の候補者になります。

2の労働者で疲労の蓄積が認められ、本人から医師による面接指導を望む申し出があった場合、会社は要望に沿って面接指導を受けさせる必要があります。改正前はこの時間数が100時間でしたが、今回の改正により80時間に短縮されています。②の労働者には管理監督者や各種のみなし労働時間制が適用される労働者も含まれます。

この面接指導と異なる扱いになるのが、労働基準法で定める時間外労働・休日労働の限度時間の適用を受けない「新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務」、いわゆる「研究開発業務」に従事する労働者です。彼らについては1週40時間を超えた労働時間が1カ月に100時間を超えた場合は、本人からの申し出がなくても医師による面接指導を受けさせなければならず、労働者にも面接指導の受診義務が課せられることになりました。

なお「研究開発業務」に従事する労働者の1週40時間を超えた労働時間が1カ月に80時間を超えた場合は、通常の労働者と同じ面接指導の対象者になります。






その他の改正項目


次に産業医への情報提供義務と面接指導以外の改正項目について見ておきましょう。

改正事項 その1

会社は産業医に対し、労働安全衛生法で定められた職務を遂行できるための権限を付与することが求められます。具体的には、①産業医が会社に対して意見を述べることや、②労働者から情報を収集すること、③緊急の必要がある時は労働者に必要な措置を指示することとされています。②の方法のとしては、職場巡視の際に対面で情報を収集する、あるいはアンケートによる情報収集といった事例が挙げられています。

改正事項 その2

従来から産業医は労働者の健康を確保する必要がある時は会社に勧告をすることができました。今回の改正法では産業医はこの勧告をしようとする時は、あらかじめ勧告の内容について会社に意見を求めるものとされました。これは勧告の趣旨が会社に理解され、労働者の健康管理のために有効に機能することを期待しての規定です。

改正事項 その3

そして産業医が会社の意見を聞き、勧告を行った時、会社は衛生委員会(または安全衛生委員会、以下では衛生委員会等と表記します)へ勧告の内容、勧告を踏まえて講じる・講じた措置、措置を講じない場合はその旨と理由を報告することが義務づけられました。また産業医の辞任や解任時も、その旨と理由を衛生委員会等へ報告しなければならなくなりました。これらの報告はおおむね1カ月以内に行うこととされています。

改正事項 その4

会社が産業医を選任した時の社員への周知義務も法律に明記されました。この周知義務が課せられたのは、新たに努力義務として、会社は産業医が社員からの健康相談に応じるために必要な体制を整備することが定められたためです。周知させる必要があるのは、①産業医の業務の内容、②産業医へ健康相談の申し出を行う際の方法、③産業医による心身の状態に関する情報の取り扱いの方法とされています。

改正事項 その5

上記③の心身の状態に関する情報の取り扱いについては、今回の改正により産業医のみならず、会社としての情報の取り扱いに関する事項が法律で明記されました。会社は医師による健康診断や面接指導、ストレスチェックなどを通じて労働者の心身の状態に関する情報の収集し、これを保管、使用するにあたっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で行うことという条文が新しく設けられました。労働者の健康に関する情報を基に何らかの人事上の措置を取る場合は、これまで以上に注意を払う必要があります。

【参考リンク】(厚生労働省作成)
事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き (PDF)
(ひな形もついています)

改正事項 その6

産業医側から見た場合の新しい役割としては、産業医は衛生委員会等に対して、労働者の健康を確保する観点から必要な調査審議を求めることができることが定められました。







改正がもたらす影響とは


今回の労働安全衛生法の改正により、会社には新たな負担が増すだけではなく、法律や規則で定められた事項を遵守していない状態で労働災害が起こってしまうと、訴訟などの争いで不利になり、損害賠償額も大きくなるといったリスクがあります。

また産業医も役割や機能が強化されたということは、労働災害時には医師としての責任が問われるリスクが高くなったと言えます。このため会社によっては産業医が辞任を申し出るケースや、報酬の増額を要請されるといった事態も想定されます。

特に産業医の大半は精神科の専門医ではないため、メンタルヘルスの労働者への対処に責任を持てないという事情もあります。産業医が見つからず困っているといった場合は、産業医にメンタルヘルスの診断や治療を依頼するのではなく、産業医を会社の「かかりつけ医」的な存在として位置づけ、必要に応じて精神科の専門医への紹介をお願いするという役割を担ってもらうというのも一つの方法です。


2018/3/31






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