人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

何がどう変わる? 同一労働同一賃金の法制化



人手不足と「特定技能」という新しい在留資格の創設により、外国人の採用を検討する会社も増えてきました。外国人を雇用する際は、同等の業務に従事する日本人と同額以上の報酬を支払うことが求められます。いわゆる 同一労働同一賃金 の規定ですが、多くの会社は戸惑ってしまいます。同じ業務をしている日本人の間でも賃金がバラバラで、誰を基準に同額以上の給料を支払えばよいのかわからないのです。

こうなるのは、多くの日本の会社は人によって賃金を決めているからです。これに対し諸外国では仕事や職務、職種によって賃金が決まるのが普通です。この違いの背景には差別の問題があります。諸外国では人によって賃金を決めると、年齢や性別、人種や宗教の違いから差別になりやすい社会的な事情があります。そのため給料は従事する仕事によって決まる「同一労働同一賃金」を受け入れやすい素地があります。

一方、日本では労働者の同質性が高く、差別問題とは縁遠いため、同じ仕事をしていても人によって給料が違うことが受け入れられてきました。しかし社会では差別による格差は問題になりにくかったものの、企業内では雇用形態の違い、いわゆる正社員と非正規労働者の間には待遇の差が歴然と生じています。

今や非正規労働者は全労働者の4割近くを占めるに至っています。そして人口減少が続き人手不足が続くことが見込まれるため、より多くの人に労働市場への参加を促し、働き手を増やすことが喫緊の課題です。また職業人生の長期化により、一つの会社で職業人生を終えるというのは昔話になりつつあります。

このため誰もが柔軟な働き方が選べ、どのような雇用形態であっても不利益を被らず、納得して働ける社会を実現することが求められています。そうなれば働く人が増えることで人材の確保が容易になり、すべての人が意欲を持ち、能力を発揮して働くことで企業の生産性向上も期待できます。そこで政府は「働き方関連法」の中で、正社員と非正規社員の間の理由のない不合理な待遇差を埋める「日本型の同一労働同一賃金」の法制化を図りました。

法律としては「パートタイム労働法」の中に「労働契約法」の条文の一部を取り込み、名称を パートタイム有期雇用労働法 に改称し、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から適用が始まります。また 労働者派遣法 も改正され、こちらは企業規模に関わらず2020年4月から施行されます。






キーワードは「均等待遇」と「均衡待遇」


改正された「パートタイム有期雇用労働法」により、旧パートタイム労働法で定められていた 均等待遇均衡待遇 という規定が、フルタイムで働く有期雇用労働者(派遣労働者も含む)にも適用されます。

「均等待遇」とは全く同じ待遇ということで、法律では事業主は差別的な取り扱いをしてはならないと記されます(パートタイム有期雇用労働法・第9条)。一方、「均衡待遇」は待遇の違いは容認するものの、不合理と認められる相違を設けてはならないとされます(同・第8条)。ちなみに待遇には賃金や賞与、昇給、手当、退職金、福利厚生、教育訓練、安全衛生に関する措置など、すべての待遇が含まれます。

「均等待遇」は、「通常の労働者」(いわゆる正社員)と非正規社員の間で、①職務の内容が同じで、なおかつ、②職務の内容や人材の配置の変更範囲が同じであれば、差別的な取り扱いが禁止され、正社員と非正規社員の待遇を同じにしなければなりません。この①の職務の内容とは、業務の内容と責任の程度が合わさったものとされ、②は人事異動や配置転換の有無を指しています。

一方、①の職務の内容と②人事異動・配置転換の有無のどちらかが同じという場合には、③その他の事情を加味した上で、「均衡待遇」が求められ、不合理な相違を設けることが禁止されます。③のその他の事情は、今後の裁判例の積み重ねで判明してくるものと思われますが、現時点で明らかになっているのは、定年退職後の再雇用であるという事情や労使の協議の内容です。

比較対象になる「通常の労働者」とは誰なのかは、争う側の労働者が選んだ上で、待遇の差が不合理であることを訴えることになります。なお今回の改正により、均衡・均等が求められるのは事業所単位から会社単位に拡大されています。そのため会社内のすべての正社員が比較対象の候補になり得ます。

多くの企業、特に本社では、正社員と非正規社員とでは①の職務の内容や責任の程度が違う、あるいは②の正社員には人事異動や配置転換があるが、非正規社員にはないといった違いがあるといったケースが多いと思われます。この場合は「均衡待遇」が求められます。

一方、地方の営業所や工場などで、共に現地採用された正社員と契約社員がいて、①の業務の内容や責任の程度が同じで、両者とも②の人事異動はないといったケースでは、「均等待遇」が求められます。ただし、争われるのはあくまで「待遇の差」であって、特定の正社員その人との差ではありません。

有期雇用契約の派遣労働者については、①派遣元の正社員との間では上記の均等・均衡待遇の規定が適用され、②派遣先の労働者との間では労働者派遣法の改正により、有期雇用・無期雇用を問わず全ての派遣労働者について 派遣先・均等均衡方式労使協定方式 のいずれかにより待遇を決定することが義務化されました。

「派遣先・均等均衡方式」では、派遣先の正社員と派遣労働者の待遇を均等あるいは均衡させる必要があります。そのため派遣先が「派遣先均等・均衡方式」が適用される派遣労働者を受け入れる場合、派遣先は自社の正社員の待遇に関する情報を派遣元に提供する必要があります。

この「派遣先・均等均衡方式」は、派遣先が変わると待遇が悪化する恐れもあるため、派遣元は「労使協定方式」により、派遣労働者の待遇決定の方法を労使協定に定め、一定の待遇を確保することも可能になっています。

なお「均衡待遇」における不合性の判断に当たっては合理性までは要求されません。最高裁は今回の「均衡待遇」の法制化を先取りする形で争われたハマキョウレックス事件で、「均衡待遇」を定めた旧労働契約法の20条は「あくまで労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題とするものと解するのが文理に沿う」と判示しています。



同一労働同一賃金で悩む人事担当者

でも「不合理」って、どうやって判断すればいいの?


不合理性を判定する目安になるガイドライン


合理性までは求められないものの、不合理性を判断する基準や目安がはっきりしないため、政府は指針(ガイドライン)を公表し、その中で個別に具体的な事例を取り上げ、どういう待遇差が不合理に当たるかを示しています。

そのガイドラインによれば、待遇差を検証する際は基本給や賞与、手当といった、それぞれの待遇ごとに、待遇差をもたらしている決定要素に基づいて、個別に比較検討した上で判断されます。待遇全般をまとめて総合的な見地から検証される訳ではありません。

例えば基本給についてガイドラインでは、正社員と非正規社員が同一の能力・経験を有する場合は、その能力・経験に応じた部分の基本給については同一の支給をしなければならず、能力や経験に違いがある場合は、相違に応じた基本給を支給しなければならないとされています。しかし多くの会社は基本給を年齢や経験、能力、期待などを総合的に加味して決定しています。決まった基本給のうち、能力や経験に基づく金額がいくらかは判断できません。このため現実には基本給については労働者側が不合理性を証明するのは極めて困難と思われます。

一方、賞与は不合理性が立証される余地があります。多くの会社で賞与は会社の業績に貢献した見返りという位置づけになっています。そうした会社で非正規社員には賞与を全く支給していない場合は、非正規社員にも会社業績に対する貢献が認められ、賞与の支給ゼロは不合理と判断される可能性があります。

職務を遂行する上で関わりのない手当に関しては不合理性が認定される事案が多いと思われます。通勤手当、皆勤手当、家族・扶養手当などはその典型と言えます。住宅手当については、正社員でも異動による転勤がないという会社では不合理とされる可能性があります。福利厚生についての正社員と非正規社員の待遇差は手当よりもさらに不合理と判断される恐れが高いと言えます。

教育訓練については、職務の内容が同じであれば「均等待遇」、職務の内容に相違があれば、相違の程度に応じた「均衡待遇」が求められます。そのため、正社員には研修を行うものの、非正規社員には一切、教育訓練は行っていないといった場合は不合理と判断される可能性があります。

待遇差が不合理か否かを決定するのは裁判所になります。労働者が裁判を起こすのはハードルが高いため、今回の法改正では都道府県労働局長の助言・指導・勧告や行政による裁判外紛争解決手続き(行政ADR)のための法整備も行われています。労働者側は裁判を起こさなくても、行政の手を借りて争いを解決する道も開かれました。


新たに企業に課せられた説明義務とは


今回の同一労働同一賃金の法制化では、企業に対して新たな説明義務も課せられています。旧パートタイム労働法では、会社が短時間労働者を採用した際は、均等待遇、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員への転換を図る制度について説明する義務が課せられていました。新しい「パートタイム有期雇用労働法」により、フルタイムで働く有期雇用契約の社員の採用時にも、この説明義務が課せられます。

そして新たに、短時間・有期雇用契約の労働者から求めがあった場合には、正社員との①待遇差の内容と②待遇差の理由の説明義務が課せられました。①の待遇差の内容とは、待遇の決定基準に違いがあるのかどうかと、待遇の個別具体的な内容又は待遇の決定基準とされています。

②の待遇差の理由は、待遇の決定基準に差がない場合は、待遇差が生じている理由、決定基準に差を設けている場合は、決定基準に差を設けている理由(職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲の違い、労使交渉の経緯などを)と、決定基準をどのように適用しているのかを説明する必要があります。

説明の方法は、資料を用いて口頭で説明するのが基本とされています。用いる資料については厚生労働省がモデル様式(※)を公開しているので、そちらを参考にするとよいでしょう。


パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書 P17~P18



2019/10/7






事務所新聞のヘッドラインへ
オフィス ジャスト アイのトップページへ


↑ PAGE TOP