人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

フィードバック上達法



経営者や管理職、リーダーなどは業績に対する責任と人材の育成が求められる。この2つを同時に満たす、一石二鳥の手法がフィードバックだ。元々フィードバックとは、センサーなどの検出器からの信号を読み取り、機械などの運転を目標値に近づける制御システムのことだ。人事労務管理のフィードバックも、上司が部下に行うことにより、業績と人材育成における目標を達成しようとするものと言える。

フィードバックと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、人事評価の後に行われる話し合いだろう。だがフィードバックをこうした限定的なものとして捉えるのではなく、広くコミュニケーションの一環として位置づけるのが相応しい。

フィードバックの役割、機能としてはまずギャップの修正がある。上司と部下では得られる情報の量と質に差があり、同じ会社・組織に属しながらも見えている範囲が違い、世界観が違う。また時間の感覚も違う。部下は目先の処理に目が向きがちなのに対し、上司は階層が上がるに連れ、より長期的な視点で現在なすべきことを判断する。こうした格差をフィードバックによって修正することが業績向上に結びつく。

またフィードバックには上司と部下の波長を一致させる機能もある。メトロノームのように、フィードバックにより上司と部下の仕事のスピード感や方向性を揃えることができる。これにより会社や組織には一体感や連帯感が生じ、部下は自分の仕事の持つ意味や役割がわかり、組織における自分の居場所がわかるようになる。

フィードバックが人材育成に繋がる視点も見逃せない。部下を育てるにはまず適度な負荷のある仕事による経験が欠かせない。過度な負荷は人材を潰してしまうし、負荷のない仕事は人材の育成という観点からすれば単なる時間潰しになってしまう。この適度さを見極めるには仕事を命じる上司の差配がモノを言う。そのため、上司は常日頃からフィードバックによって部下の能力や、現在抱えている仕事の状況を把握しておく必要がある。






長年、フィードバックの研究を続けている立教大学の中原淳教授によれば、フィードバックの役割には、①部下に現状を把握させ、現実と向き合うための「情報通知」と、②部下に自分のパフォーマンスの程度を認識させ、業務や行動を振り返り、今後の行動計画に繋げる「立て直し」がある。

人が成長するには周囲の人たちによる支援が欠かせない。この人的支援には、①業務支援、②振り返りを促す内省支援、③気持ち、マインドを支える精神的な支援がある。①の業務支援にあたるのがフィードバックによる「情報通知」であり、②内省支援と③精神的支援がフィードバックを通じた「立て直し」に相当する。


フィードバックの基本ステップ


職務を遂行していく上で欠かせないフィードバックだが、フィードバックの巧拙は人によって大きく違う。その理由は、フィードバックのスキルは研修などにより学んで身につける「修得」というよりも、体験などを通じて習って覚える「習得」による面が強いことが関係している。自分が部下の時、上質なフィードバックを受けた人は、自らの体験を基に一定レベル以上のフィードバックを再現できる。また「習うより慣れよ」という格言の通り、数多くのフィードバックを繰り返すことで自然と上達していく。

その結果、フィードバックが組織の習慣として根付いている会社とそうでない会社ではフィードバックのレベルに雲泥の差が生じてしまう。フィードバックが定着していない会社では、どうやってフィードバックをすればいいのかわからないケースがほとんどだ。中原教授は本の中でフィードバックの基本的なステップを取り上げているので参考までにご紹介しよう。

まずフィードバックの事前準備として情報の収集と整理を行う。対象にするのは、①状況・Situation、②行動・Behavior、③影響・Impactの3項目で、頭文字からSBI情報と呼ばれる。①の「状況」とは、部下のどのような場面・状況が問題なのか、そして②部下のどんな「行動」が問題だったのか、最後に②の問題行動がどのような「影響」をもたらしたか、こうした情報について主観を入れないように意識して収集・整理してフィードバックに臨む。

実際のフィードバックでは、部下との信頼関係が大きな影響をもたらすことに留意する。人は「何を言われるか」よりも、「誰に言われるか」によって、どの程度、耳を傾けるのかが決まる。フィードバックを行う経営者や上司が部下に対して信頼感を抱いていないと、それは必ず相手に伝わってしまう。フィードバックを行う際は部下に対する尊重の念を忘れないことが肝要だ。

フィードバックが始まると、今回の面談の目的を告げ、事実をありのままに、自分の意見や考えなどを交えずに伝える。話す内容は具体的に、そして論理的であるように意識する。自らの主観や思い込みと受け取られかねない「いつも〇〇〇しているが」とか、「〇〇性」とか「〇〇的」といった曖昧な表現は用いないようにする。

部下が話を始めたら最後まで聞くことが重要だ。フィードバックに不慣れな経営者や管理職は部下の話を最後まで聞くことができない。聞きながら我慢できず話を途中で遮ったり、聞きながら反論のために何を言うかを考えていたりする。人は自分の意見を聞いてもらえないと、相手の話を受け入れることはできない。

延々と脈絡のない話が続くのではないかと懸念する人もいるが、人はそれほど長く話を続けられるものではない。だから部下の話にはトコトン付き合うつもりで、とにかく最後まで聞き尽くすぐらいの覚悟が求められる。





会話の運びはここがポイント


またフィードバックと日常業務遂行でのやり取りは別物ということを理解しておく。日常の業務であれば、上司の言ったことを部下は聞く→聞けば理解する→理解したら行動するという流れになるが、フィードバックではこの図式が成り立たない。部下は上司や上役の言ったことを聞いていないし(上の空)、聞いていても理解していない(納得していない)、仮に理解しても行動には至らない(頭ではわかっても体がついていかない)のが現実だ。

そこで部下の話を最後まで聞いた上で、「さっき話をした〇〇という点について、どう思ってる?」と問いかけたり、「で、実際のところはどうなの?」と聞いて部下の心の声(本音や本心)を話す機会を与えてみる。また「さっきの〇〇というのは〇〇のように見えるよ」といった伝え方で、決めつけ感を抑えつつ、自らの見方との違いを話してみる。フィードバックでは自分と部下の間で生じている認識のギャップを埋めることに大きな意味がある。

部下に話をさせるには、「What?」「So What?」「Now What?」を意識しながら促すとよい。「What?」(何があったのか)で、どんな状況で、どんな行動をして、どんな問題が起こったのかを部下目線で語ってもらう。そして、「So What?」(それはなぜなのか)によって、出来事を振り返りながら、何が良くて、何が悪かったのかを話させる。さらに「Now What?」(これからどうする? どうしたい?)によって、今後の目標設定に向かう。

いずれも部下が自分の言葉で、自由に話をするという点がポイントだ。人は相手に話をする際は、相手に理解してもらおうという意識が働く。すると自然に過去の出来事を思い出しながら、その時自分がどう思ったか、どのように受け止めたかを振り返る。自分の内面に生じたことについて話をするため、多少、わかりづらい話になることもあるが、遮らずに最後まで話をさせる(=話を聞く)。話をしながら自分の考えが整理され、まとまってゆくことも多い。そうした時間を作り出すのがフィードバックの重要な機能と言える。

最後の目標を設定する際は、よく言われる「SMART」を意識する。

  1. S:Specific=目標は具体的か
  2. M:Measurable=成果を測定できるか
  3. A:Achievable=実現の可能性はあるか
  4. R:Realistic=目標は現実的か
  5. T:Time=期限内に達成できるか


フィードバックの最後はフォローアップとして、今後も期待をしていること、支援を約束することを伝える。フィードバックによる心理的な落ち込みを回復させるためにも、「やればできる」という部下の自己効力感を高めるための配慮や思いやりのある声がけを忘れない。


心に留め置くこと


フィードバックについては以下のことを理解しておくとよいだろう。

①絶対これが正しいフィードバックというものはない。フィードバックの成否は、互いの人間関係や現在の仕事の状況、仕事を取り巻く環境などによって左右される。

②フィードバックは質より量。実りのある数少ないフィードバックより、回数を重ねる方が効果が高い。

③フィードバックをする側の上司や管理職もフィードバックを受ける機会を得るように工夫する。自分がフィードバックを受けることで新しい発見に気が付く。

④フィードバックにはかなりの時間がかかることを覚悟しておく。そのためフィードバックは予定の時間が過ぎても支障がないスケジュールで行う。

⑤フィードバックできる人数の上限を知っておく。研究成果では一人がフィードバックできる人数は5人~7人が限度とされている。これを超える人数の部下がいる場合は、フィードバックという仕事を一つ下の階層の部下に委任することを検討する。

⑥熱心にフィードバックをしても変わらない部下、変わることを拒む部下が一定数いるという現実を受け入れる。フィードバックは人材育成に有効な手法だが万能薬ではない。


2020/8/10







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