人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

長い職業人生を乗り切るヒント


私たちの誰もが大なり小なり常識に囚われている。だが、捉われている常識に気がつかないと、囚われていることにも気がつかない。成人までは学校に行き、卒業すると就職し、一定の年齢になると引退して余生を送る、こうした教育→仕事→引退後という3ステージも常識の一つと言える。

今、この3ステージの人生が大きく揺さぶられている。揺さぶっているのは長寿化だ。医療や薬、健康情報に基づく生活習慣の改善、健康についての教育・啓蒙活動などを背景に長寿化が進んでいる。最も長寿の国々では10年ごとに2~3年のペースで平均寿命が延びており、2007年に誕生した子供たちのおよそ半数は104歳まで生きるとされている(日本では107歳)

長寿化に伴い、引退後の経済面での不安も現実化する。年金制度は支えとなる子供の数が減り、経済成長率が鈍化することで十分な額に達しない。そのため、現役時代にはこれまでの世代以上に稼いだ所得を預貯金や資産運用に回す必要がある。さらに不足する年金額を補うと言っても、これまでの3ステージの「仕事」を長期間に渡って続けられるのだろうか ・・・

これから私たちはどういう人生を送ることになるのか、長寿化にどのように対処すべきか、長寿化を厄済としないためにはどうすれば良いのか、そのヒントが『ライフシフト 100時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット共著)にある。




ライフシフト 100年時代の人生戦略


マルチステージ化する人生


100年ライフでは誰もが70歳~80歳まで働くことになり、人工知能やロボットにより新しい職種やスキルが登場する。おカネが万能ではなくなり、健康や家族、知識・スキルが重要になる。20世紀にそれまで大人と子供という2ステージだった時代に「ティーンエージャー」という新しいステージが登場したように、今後は「エクスプローラ」(探索者)、「インディペンデント・プロデューサー」(独立事業者)、複数の仕事に関わる「ポートフォリオ・ワーカー」というステージが加わり、人生はマルチステージ化する。そしてステージ間の移行を伴う変化が当たり前になる。

これまでの3ステージでの「仕事」の期間を長くするだけでは、今後に待ち受ける大きな環境の変化に対応できない恐れが多分にある。なぜならテクノロジーの進歩により将来の社会や仕事、職業を予想するのが難しいためだ。予測できない環境の変化に対応するために、そしてマルチステージの間を移行するために必要になるのがおカネや預貯金といった有形資産に加え、無形資産と呼ばれる資産だ。

無形資産は、①経済的な有形の資産を生み出すスキルや知識、経験などの「生産性資産」、②心身の健康といった「活力資産」、③マルチステージの移行に必要な「変身資産」に区分される。そしてステージに応じて無形資産も増減する。会社人間や仕事人間のように有形資産を蓄えることばかりに時間を費やしていると、無形資産が劣化し新しいステージへ移行できなくなる。常に学びや経験学習などを通じて無形資産へ投資を行い、劣化を防がなければならない。

人生を通じてこの無形資産をどのようにマネジメントする事が重要になる。これは会社の経営と似通っている。会社も稼いだ利益を蓄えるだけでなく、予想ができない将来に備えた投資を怠ると存続がおぼつかなくなる。





模範的なモデルがない人生


人生がマルチステージになることで、お金についての見方や考え方が変わり、時間や余暇の使い方も変わる。そして家族や友人といった人間関係も変わってゆく。これまでのように年齢とステージが一緒に進むという一斉行進の人生ではなく、人によっていつ、どのようなステージを選ぶのかが変わってゆく。長寿化人生の模範的なモデルというものは存在しない。

そうした中で重要なのは変わりゆく自分の「アイデンティティ」、言い換えれば無形資産をマネジメントしながら、「自分らしさ」をマルチステージの体験を通じて見つけること、維持すること、成長させること、確立することだ。

将来がどのようになるのかは予想できないが、長寿化は確実にやって来る。気がつけば周りの風景がすっかり変わってしまっていることも起こり得る。そんな時に立往生しないために、今から何をなすべきかを考え、行動に移すべき時期を迎えている。






2022/02/16


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