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USJ再生の秘密を探る


初期のモチベーション理論の一つにマクレガーのX理論・Y理論がある。人間についての2つの見方とされ、X理論では人間を仕事が嫌いで、責任を取ろうとせず、安定を求める存在として捉える。Y理論においては人間は当たり前のものとして仕事に取り組み、自ら責任を引き受け、目標の達成に向けて進んで働くとする。

マクレガーは会社のマネージャーはY理論という性善説に基づき部下に対応することがモチベーションの向上に有効であると唱えた。これに対し、性悪説であるX理論による人間観に基づくサクセスストーリーを語るのがUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を再建したことで知られる 森岡毅 氏だ。


森岡毅氏の写真
       森岡毅 氏


同氏によれば、人間の本質は自己保存本能にあるという。できるだけリスクを避け、現状維持を優先させる。人前で恥をかきたくないから、チャレンジに尻込みする。責任を問われ、地位が脅かされる恐れがある提案や改革には反対する、こうした本能に従って行動するマネージャーばかりになることで会社は衰退する。そこで森岡氏はこれらを逆手に取って自分の提案を通し、USJの体質を変えた。その手法のポイントをご紹介しよう。


提案を通すためのスキル


自らが経営トップでなかった森岡氏は経営陣に提案を通すためにマーケティングと同じ要領で活動した。顧客に見立てた経営陣=意思決定者のニーズやウォンツを探り、提案が意思決定者の意図や目的と一致するようにした。

ターゲットになる意思決定者には2つの顔がある。一つは組織目的に忠実な顔であり、もう一つは自己保存に忠実な顔だ。一人の意思決定者が両方の顔を併せ持つこともある。組織目的に忠実な顔の意思決定者には「公」の便益を訴え、自己保存忠実な顔の意思決定者には「個」の便益を盛り込むようにする。

「公」の便益とは、組織の全員にプラスをもたらすもので、売上が上がり会社の業績が向上する、コストが削減され利益が増える、社内の結束力や一体感がもたらされるといったものだ。提案の実現可能性を高め、時間や経費、それにリスクを軽減すれば、「公」の便益の魅力度はさらに高くなる。

一方、「個」の便益には実利を衝くものと、心理を衝くものがある。実利とは意思決定者の現実的な利益やメリットのことで、自分の報酬が増える、社内での評価が上がる、昇進につながり影響力が強まるといった類のものだ。野心や打算の産物とも言える。

一方の心理を衝く便益は相手によって千差万別だ。提案を実行することにやりがいを覚えたり、生きがいを見い出す人もいれば、誰かの役に立ち、相手から感謝されることに大きな意義を感じる人もいる。

自分の提案を最適なものに仕上げるには、相手がどんな花が好きなのか、花より団子なのか、花を持たせるように仕向けてみる、といったテストマーケティングを繰り返す。森岡氏はこのスキルを ターゲット・アナリシス と呼んでいる。

森岡氏によれば、「ターゲット・アナリシス」のスキルを磨きながら、自分の提案を上司に買わせることで、下からでも組織の体質を変えられる。そして、このスキルは社外の折衝や売り込みにも有効であり、スキルの精度が高まれば自分のこれからのキャリアアップにも役に立つ。





人事評価は相対評価


組織力は個人技とシステム(仕組み)の掛け算であり、システムはマーケティング、ファイナンス、生産マネジメントで構成され、これらの土台にあるのが組織マネジメントだ。組織マネジメントは意思決定システムと評価報酬システムに分かれる。


組織力のイメージ


意思決定のためのシステムとして会議があるが、大半の会社での会議は、議論を尽くして責任者が意思決定する場として機能していない。そこで森岡氏はUSJの会議を人間の自己保存本能を踏まえた運営方法に改めた。意思決定者または意思決定の権限を委譲された人が必ず出席し、関係する部署の責任者が一堂に集い、議論を経た上で責任者がその場で決定をする。そして会議の終了後すぐにに決定事項を会議の参加者以外も伝えるために会議の要約文を公開したり配布する。

会議の場で責任者が決めることにすれば、参加者は自己保存本能から自分や自分の部署が有利になるように準備をして会議に臨むようになる。また関係者が全員出席して議論するため、密室での談合や駆け引き、根回しがなくなる。

そして会議の内容を公表することで誰の目にも誰が何を決めたかがわかり、責任の所在がはっきりする。後々、参加者は不作為による責任を問われかねないため、決定事項を遵守せざるを得なくなる。このように会議を意思決定のためのシステムと位置づけることで、関係者を行動させるという効用が生じる。

評価報酬システムは人事評価制度と賃金制度で構成される。森岡氏は人事評価では相対評価を採用し、評価によって報酬に大きな差を設定した。相対評価は社員を評価順に並べて順位を付ける方法だ。社内の序列が明らかになる上、順位が下がれば報酬も下げるようにした。評価が下がり給料が下がれば、経済的な安定を求めるという自己保存本能が脅かされる。

人間を追い込むことで本来の力を発揮させようとする手法には異論もあるだろう。だが業績不振が長引き、その人が持つ本来の力を引き出せないまま会社が立ち行かなくなり、最後には職を失うことになってしまう方が過酷と言える。

雨が降ったら社員が濡れないように傘を差し出すのが良い会社なのか、それとも雨に打たれても風邪を引かないように鍛えるのか良い会社なのか、正しい答えは会社によって異なるのだろう。


2022/11/14




マーケティングとは組織革命である」・森岡毅 著


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