人材育成のカギは振り返りにあり

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経営者や管理職にとって人材の育成は取り組むべき大きな課題の一つだろう。だが著名な経営者の中には、「人材は育てられない」とか、「人は自分一人で勝手に育つ」などの自論を唱える人も少なからずいる。この相反する現実をどう受け止めればよいのだろう。
その答えは教育論に見出せるかもしれない。かつて教育は教師が生徒に情報や知識を伝達するもの、という考え方に拠っていた。パイプに水を通せば上から下へ流れるように、情報や知識を生徒に伝えれば学習は完結するとみなされていた。
だが20世紀に入ると知識は学習者が獲得した情報に意味や価値を見出し、自ら作り出すものであるという見方が広がり始める。発達とは事前の知識が学習のプロセスを経て、質的に変化したものであるとする。
ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)に代表されるこうした主張は、人間の知識は情報を自分で構成することによってもたらされることから「構成主義」と呼ばれている。構成主義の浸透により教育は教えるものから、学習者が学び取るものであるという見方に変わってゆく。

振り返りによって自ら学ぶ
この考え方は子供たちを見ているとよくわかる。子供たちは親や先生から教えられて知識を得ているだけではない。興味のある遊びから刺激を得たり、友達との関わり合いの中から何かを感じ取り、学んでゆく。
企業の人材育成においても何かを教える・伝えるOJTやOFF-JTだけでなく、社員が自ら学ぶ姿勢を醸成していくことが望まれる。そのためには仕事を通じて得たもの、感じたことは何かを振り返る内省(reflection/ リフレクション)が大きな役割を果たす。内省することで経験や感情が構成されて学習が進む。
学習理論の大家、ドナルド・ショーン(Donald Alan Schön)は、現代の専門家像として「省察的実践家」(reflective practitioner)という見方を打ち出した。それまで専門家とは、身につけた体系的知識を現場の問題解決に適用しながら熟達するものであると考えられていた。
しかしショーンは企業の実地調査から、現代の専門家は直面した問題を七転八倒しながらなんとか解決し、その後に問題解決を振り返って評価し、教訓を導き出すことで発達するという事実を明らかにした。
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他人の存在が人の成長を助ける
こうした内省は一人よりも、上司や仲間、時には部下といった他人の存在によって、より効果的に行える。自らの経験を他人に伝えようとすれば、過去を振り返り、その時々で生じた事実や感情を言語化しなければならない。相手が質問すれば、嫌でもつらい過去と対峙せざるを得なくなる。
体験や感情を言葉にしていると、当時の自分をあたかも第三者の目線で見るようになり、客観的な見つめ直しにつながる。
そして、その場で何を得たか=学習成果、どうしてそうした意思決定をしたのか=自分の判断の軸、何が足りなかったのか=自らの弱み・課題、もしあの時〇〇すればどうなっていたか=創造力の向上、これらに気づいたり、新しい視点が浮かび上がってくる。
つまり他者による相手の話に耳を傾け、問いかけをして、体験を共有するという行為が、相手の内省支援につながり、成長を助けている。企業の現場調査でも、他者からの内省支援が成長実感をもたらすことがわかっている。必ずしも仕事ができるようになることだけが成長実感につながるわけではない。
構成主義の一つである「社会的構成主義」を唱えた旧ソ連の心理学者、レフ・ヴィゴツキー(Lev Semenovich Vygotsky)によれば、人間の学習には他者の存在が欠かせない。

社員が勝手に育つ仕組み
企業の人材育成に立ち返れば、経営者や管理職は手取り、足取り部下に教えるだけでなく、仕事が一段落した時点や、節目節目で仕事を振り返らせてみる。そして、時には自分の体験や想いを伝えながら内省を促す。
また、部下たちが仲間同士で互いに自分の仕事ぶりを語り合い、振り返ることができる対話の場を整えれば、互いの内省が進む。
人類学者のエティエンヌ・ウェンガー(Etienne Wenger )と社会学習の理論家ジーン・レイブ(Jean Lave)は、こうした仕事を通じて互いに学習を助け合う組織を「実践共同体」と称した。
行動から内省に繋げ、それが次の行動を生じさせ、さらに新たな内省を促す、こうしたサイクルを繰り返す場を整えることで、人材は育成されていく。
先の「人材は勝手に育つ」と語る経営者たちは、意識しないまま実践共同体を作り上げていて、人材を育成することを意識しないまま、社員たちが自分で学んで成長していくからではないだろうか
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2026/02/16
今回、参考にした本 ↓

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