なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか

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会社と社員の関係が、静かだが確実に変わりつつある。大企業を中心に多くの日本企業は今も終身雇用を前提にしているが、多くの若手社員は人生100年時代を見据え、定年まで一つの会社に勤め続けるのは不可能であることに気づいている。
そのため会社選びは転職を前提にしたものになり、目下の関心は今の会社での昇進昇格や職務経験よりも、他社でも通用する汎用的なスキルの習得に向かっている。一方、会社側は転職者の増加は避けられない前提に立ち、時間をかけて人材を育成するよりも、短期・中期の視点から業績に貢献する人材の獲得に余念がない。人材育成や社員教育を巡って、両者の間のミゾは深くなりつつある。
多くの研修企画担当者は、思惑の異なる者同士で行われる研修は実りある成果につながらないことに気づいているが、研修以外に効果的な手法は見当たらず、なんとなく、それっぽい研修を惰性で続けている。
発達志向型組織の人材育成のあり方
こうした現状の解消に向け一筋の光明になる会社がある。「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」の著者であるロバート・キーガン(Robert Kegan)たちが
発達志向型組織 (DDO= Deliberately Developmental Organization)と名づける米国の会社だ。電子商取引を手掛けるネクストジャンプ、映画館や不動産、老人ホームなどを運営するデキュリオン、資産運用を行うヘッジファンドのブリッジウォーターの3社で、どの会社も社員数は数百人という中堅規模だ。
これらの会社では会社と個人が同時に、そして一体として成長する取り組みを作り上げている。3社の仕組みを裏打ちしているのは 成人発達理論 だ。この理論によれば、大人の知性には ①環境順応型知性、②自己主導型知性、③自己変容型知性という3つの段階がある。発達によって①から②へ、そして③へとレベルアップすることで、情報をどのように発信するか、受け止めた情報をどのように扱うかに違いが生じ、それが仕事の生産性向上に繋がる。

多くの人が①の環境順応型知性にあり、自らが発信する情報は周囲の人たちがどのような情報を求めているかという自分の認識に左右される。情報の受け止めでは、好ましいと考える環境に自分を合わせることに注力する。その結果、情報に敏感になり影響も受けやすい。
少数派である②の自己主導型知性では、自分なりの目標や基本姿勢、戦略などを持っていて、それがコミュニケーションの前提になる。発信する情報は、自分の課題や使命を追求する上で、相手にどのような情報を知らせたいかによって決まる。情報の受け止めでは、選別のフィルターによって自分にとっての重要な情報が優先される。
極めて少数の③自己変容型知性に至ると、情報の発信では目標や計画を前進させるためだけでなく、軌道修正のために必要な情報を求める。また情報を受け取る際は、自分が持つ選別のフィルターを意識しつつ、フィルター自体の存在を客観的に見つめる。その結果、もたらされる情報に対して開放的な姿勢で向き合える。
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弱みと向き合い、知性のレベルを向上させる
成人発達理論によれば、人はいくつになっても自分と周囲の世界への理解を妨げる障害を乗り越えることができる。このため発達志向型組織では、社員を①から②③へと段階的に成長させることを目指している。仕事上のスキルや行動、マインド、思考力などを鍛えるのではなく、人間としての発達に繋がる育成が行われている。
そのために3社では共通して、経営陣も含めた全員が自分の弱みに気がつくことができ、それを全員で共有する。自分や相手の考え方や感情、行き詰まりとなっている点をオープンにしたり、指摘し合って、周囲の人たちと話し合い、仕事をこなしながら改善を試みる。
相手が上司やリーダーであっても例外はなく、誰でも相手に問題があると感じたら、それを指摘する。周囲から自らの痛い所を指摘され、それが全員に知らされ、改善のための取り組みや進捗が人事評価のポイントになる。
自らの欠点や短所を隠したまま成果を上げても評価はされず、逆に自らの至らない点を公表することが奨励される。一人ひとりの赤裸々な告白が、他のメンバーの発達のために役立つという共通の理解や認識が会社風土・組織体質になっている。

著者たちによれば、多くの会社で社員は自分の弱さを隠す仕事に精を出している。自分を優秀であると見せようとしたり、駆け引きをして欠点や不安、限界を隠そうとしている。
発達志向型組織の3社では、こうした「裏の仕事」に費やす時間と労力を失くし、自らの弱みと向き合い、克服することに力を注ぐ。学習とステップアップを目指すコミュニティを舞台にして、個々人の成長への強い欲求に導かれる形で、緊密なメンバー同士の繋がりによる相互補完的な一連の慣行を実践し続けている。
目に見える活動事例としては、①メンバー同士でのフィードバックやコーチング、②現在の自分が克服しようとしている課題をリストアップして、それらを全員で共有する、③仕事に馴れた頃を見計らっての人事異動、④権限の委譲、⑤結果ではなく結果を生むプロセスの重視などがある。外見上は特別な活動ではないが、背景にある「人間の発達」という軸が活動に生気をもたらしている。
こうした手法に違和感を覚える人も一定数いるだろう。会社は仕事をする所であって、個人の内面や心情にまで立ち入るべきではないという意見だ。これは当然至極であり、3社の手法があらゆる会社で実践されるべきとまでは言えないだろう。また経営陣や部門長といったトップがこうした手法に賛同しない限り、実践や浸透は不可能だ。
だが上位階層者の賛同を得られなくても、現場のメンバーだけで試してみることはできる。共感を覚えるメンバーを探して、自分の能力の限界についての情報を集める。そして自らの成長を妨げている自己防衛的な要素をリストアップする。仕事ぶりを互いに観察し、定期的にフィードバックを交わす。状況が許せば、こうしたコミュニティに上司やお手本にできそうな人物を引き入れる。
事と次第によっては現場の活動が全社や部署全体に広がることもある。多くの人が関わるようになれば、さらに自社に適した手法に磨きがかかる。
「成人発達理論」は会社組織による人材育成に新しい視点を持ち込みそうである。
発達志向型組織で観察・実践される項目
<成長への強い欲求について>
- ●ミスは成長を促すチャンスとして捉える
- ●成長を促すためにあえて問題を見つけたり、問題を作り出す
- ●一人ひとりが自分の能力の限界に挑む
- ●全員が仲間の成長を積極的に支援する
- ●会社組織として集団が抱えている既成概念を打破しようとする
- ●会社組織の目的が個人の成長と一体化している
<安心して信頼できるコミュニティについて>
- ●自分の限界を公にすることが、成長の源泉として歓迎される
- ●個人の弱みが成長の源として扱われる
- ●心理的に安全な場によって社員同士の人間関係が保障されている
- ●経営陣や管理職のメンバーも、成長のための活動に取り組んでいる
- ●立場の違いによる対立は成長のために必要とされている
- ●上位の役職や優れた経歴を備えた人への遠慮は最小限に留められている
<成長を実現するための慣行について>
- ●日々の仕事の中に成長のための学習を支援する仕組みが用意される
- ●個人の成長のためにポジションが設けられ、課題が作り出される
- ●個人の成長課題について、誰でも相手にフィードバックをして、自らもフィードバックを受けられる
- ●成長のための慣行が定例化され日常業務になっている
- ●成長に関する自社独自の言い回しや原則が示されている
- ●全員が自分と相手の成長を促すプロセスを改善することに体系的に取り組む
2026/04/21
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