人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

キャリア開発支援って何をするの?


前回、多様な社員が集まる会社・組織に一体感や連帯感をもたらすためには、「多様性を活かす人事管理」が求められ、人材育成ではキャリア開発支援が重要になることを指摘した。

キャリアとは明確な定義がなされておらず、様々な解釈をされているが、ここではダクラス・ホール(Douglas Hall)の定義である、「生涯に渡る仕事に関係する経験や活動と伴に個人が取る態度や行動の連なり」とする。キャリア開発を支援するとは、社員が主体的な意識を持って仕事と向き合い、充実した職業人生を送れるように会社が支えることを指す。

こうしたキャリア開発の支援に対して、キャリアは自己責任であり会社が関わる話ではない、とする意見がある。しかし、これまでも日本企業は終身雇用の保障で社員のキャリアに深く関わってきた。ところが、もはや多くの会社で終身雇用を約束できなくなってきた。企業は終身雇用を放棄する代償として、キャリア開発支援で社員のキャリアに関与する転換期を迎えていることになる。






キャリアの「核」を見つける


キャリア開発支援には3つの側面がある。まず、社員一人ひとりのキャリアの核、基軸となる要因を明らかにする。自分の強みや弱みは何か、自分らしさとは何か、仕事を通じて何を得たいのか、職務を遂行していく際に何を大切にしたいのか、こうした点を明確にする。

キャリアの核の例としては、エドガー・シャイン(Edgar Schein)の唱える キャリア・アンカー(Career Anchor)がある (アンカーとは船の錨のこと)。船がどんなに流されても最終的には錨のある場所へ帰ってくるように、会社や職種が変わっても仕事を進める上での自分なりの基本姿勢、大事にする原理原則、譲れない価値観がアンカーになる。

シャインによればキャリア・アンカーには次の8つがある。

  1. 専門的・職能別能力 (Technical/Functional Competence)
  2. 管理能力 (General Managerial Competence)
  3. 安全・安定性 (Security/Stability)
  4. 起業家的創造性 (Entrepreneurial Creativity)
  5. 自律・独立 (Autonomy/Independece)
  6. 奉仕・社会貢献 (Service/Dedication To a Cause)
  7. 純粋な挑戦 (Pure Challenge)
  8. 生活様式 (Lifestyle)



キャリアの核としてのキャリア・アンカーはあくまで一例であり、これ以外にも様々なものが考えられる。研修やカウンセリング、人材アセスメントのような適性検査により明らかにすることができる。





ジョブデザインを進める


キャリアの核がわかれば、次に現在の仕事において、キャリアの核を活かすにはどうすればよいかを検討する。与えられた仕事を言われた通りこなすだけではなく、そこに自分らしさを持ち込んだり、自分のモチベーションが高まるように仕事に味付けをする。これは ジョブデザイン と称されることがある。そのためには職場の上司や同僚、時には家族といった人間関係による理解と支援が欠かせない。

キャリアを開発する上で、時には現在の職場や職種を変える場面もある。自分の希望する職種や部門に異動できる仕組みとして、自主申告制度社内公募制度 などがある。だが、こうした異動がかなうことは稀で、時には退職という大きな決断に至ることもある。

自主申告制度や社内公募制度といった仕組みは、社内や関連会社に様々な仕事や部署がある大企業には適しているが、中小企業には不向きだ。その代わり、中小企業は大企業ほど個人の仕事や役割が明確に定められていないため、ジョブデザインの自由度は高い。中小企業はこの自由度の高さを活かすことが大切だ。



常日頃からの意識づけ


キャリア開発には計画を立て、情報を集め、仕組みを整え、整然と進めるようなイメージがあるが、実際にキャリアが形成される過程では予想外の出来事に左右されることも多い。こうした偶然性を自分のキャリアに活かそうとする考え方が、ジョン・クランボルツ(John Krumboltz)の唱える 計画された偶然理論(Planned Happensatance Theory)だ。

常日頃からキャリアの核を意識し、仕事に自分らしさを反映させようと主体的に職務に対峙していると、偶然起きた出来事が自らのキャリアにとって重要な節目となることがある。偶然の出来事が計画されていた事柄に転じる。クランボルツはそのために必要な行動として、①好奇心、②粘り強さ、③柔軟性、④楽観、⑤リスクを取る、という5つを挙げている。


今後は企業規模の大小を問わず、社員の多様性は進み、個人は健康であれば70歳まで働く時代が来る。長い職業人生とどのように向き合って、どう過ごすのかを考え、実践する場を提供するのがキャリア開発支援と言える。

【参考資料】
事業内職業能力開発計画作成の手引き(PDF)


2015/2/22





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