人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

中途採用業務における事前準備と面接対策


終身雇用制度が終わりを迎え、多様な労働者が多様な雇用契約で働くことが当たり前になってきた。今後、雇用の流動化は確実に進むことが予想される。そうなると企業の人事管理では中途採用の頻度と重要度が増すことになる。

中途採用で重要になるのは事前の準備と面接の対策だ。今回はこの2つのポイントについてお送りする。






求める人物像を特定する


事前の準備では、まず求める人物像を明確にする。このプロセスには2つの側面がある。どんな採用でもいつも変わらない人物像と、今回の募集に当たり求める人物像だ。

いつも変わらない人物像とは、自社の社風や組織風土・体質、企業文化に合った人物像のことだ。自社のカラーに合わない人物を採用すると、その後の教育や育成、評価、処遇で手を焼くことになり、周囲との人間関係も上手くゆかず、結局退職してしまうケースが多い。

時折、経営者によっては中途採用によって、既存の社員に刺激を与えたり、社内のムードを一新しようとして、あえて自社のカラーとは違う応募者を採用しようとすることがある。こうした採用は高いリスクを伴うことになる。そもそも社風や会社の体質といったものは漠然としたもので、それを変えるのは大仕事で、少人数の中途採用者が変化のきっかけ、触媒になることを期待するのは無理がある。例外は、新規事業を手がけるために設立した別会社の責任者クラスや、組織体制を大幅に見直し新体制で経営を推し進める場合の役員候補などに限定される。

一方、今回の募集時に求める人物像は、採用後の職務や役割、配属予定先に応じた要件を基に、その都度、決めることになる。年齢、経験、資格、スキル、適性、志向性などを中心に求める人物像を特定してゆく。適性や志向性を用いる場合は、自社の人事評価基準との整合性が取れるようにする。応募者に求める適性や志向性と自社や募集部門で高く評価する要素が一致するようにする。

2つのプロセスで求める人物像を明らかにする際は、単語やフレーズだけを決めるだけでは不十分だ。例えば「行動力のある人」と決めるだけでなく、「行動力」とは一体何か、どんな内容・中身なのかについて採用業務に関係する人たちの間で定義や理解、認識を一致させる。

そのためには、行動力が高い人とは、仕事を進める際にどのような特徴・特性を有しているのかについて具体的なイメージを描き、これを採用担当者の間で共有できるようにしておく。これをしないまま、面接を行うと判断基準のモノサシがそれぞれ違ったまま選考を行うことになり、結果は自ずと異なってしまう。

具体的なイメージが決まれば、それを見極めるための質問事項を考え、質問に対する応募者の回答や反応の判断基準も作成する(面接の質問事例についてはこちら



応募者に転職を決断させる


事前準備では自社のアピールする点や募集職務の訴求ポイントも明確にする。中途採用というと、会社側が有利な立場で応募者を選別するという感覚の人がいるが、今後の中途採用は量的な不足を補う「補充」に加え、他社に在籍中の人を自社に転職させるような「補強」のための中途採用も増えてくる。

こうした場合、応募者は転職に必ずしも前向きでないこともある。現在勤めている会社より待遇がよく、将来性があり、自分の専門性を活かせるのであれば転職を決断する。こうした中途採用では必ずしも会社側が有利とは限らず、応募者を転職に踏み切らせるだけの強い動機づけが必要になる。

自社の将来性を魅力のあるものとして語るには経営者を置いて他にない。一般に採用では採用担当者の器を越える人物は採用できないと言われる。中小企業では最も器が大きいのは経営者なので、経営者が応募者に自社で働くことの魅力を訴えないと中途採用力は向上しない。経営者は採用に関しては自社の魅力をアピールする最強の営業担当者と言える。

こうした準備作業を終えて募集要件の具体化に進む。採用後の仕事の内容や労働条件、雇用形態、募集媒体の選定、選考プロセスなど細部を決めてゆく。事前準備を怠ったまま採用活動に入ると良い結果にならないのは応募者だけでなく会社側もあてはまる。



事前の準備が終われば、次は面接の対策です



会社が行う面接の対策


会社がなすべき中途採用業務の対策として面接の進め方がある。ここでは、まず面接のデザイン化を図る。何回面接を行うのか、それぞれの面接の目的・狙いをどう設定するのか、面接をどのような流れで進行させるのか、といった全体の骨格を設計する。

複数の応募者に数回の面接を行う場合は、最初の段階では質問はできるだけ同じ内容で揃え、「迷ったら通す」を原則にする。そして、後段階になるほど、応募者それぞれに応じた個別の質問内容にしてゆく。人材紹介会社を通じての採用などで応募者が1人の場合は、最初から個別の質問に入る。

実際に応募者と会う面接の場では、信頼関係の構築を心がけるようにする。経営者や担当者によっては応募者の真実の姿を見抜こうとして、面接があたかも警察の取り調べのようになることがある。こうなると応募者は出来るだけ自分に不利な事は話さないようにしようと身構えてしまう。これではキツネとタヌキの化かし合いで、優秀な応募者ほど会社や転職に魅力を感じない。会社と応募者は対等であり、面接は互いの情報を交換する場であることを共通の理解にして、応募者が進んで自己開示ができるようにする。

質問に対する回答を受け止める際は人事評価と同じような評価エラーに注意する。主な評価エラーとしては次のようなものがある。

  1. 特に優れた点があると、それに惑わされ他の点の評価が甘くなる(=ハロー効果。ハローとは仏様の後光のこと)
  2. 自分にない点や自分に類似している要素を高く評価する
  3. 第一印象や先入観・思い込みにより、典型的なタイプとして決めつける
  4. 評価がバイアスされているのを無意識のうちに隠すため、理由を後付けする


こうした評価エラーやバイアスを防ぐための面接として、多くの会社で取り入れられているのが 行動面接 と呼ばれる手法で、コンピテンシー面接、構造化面接、STARなどと称されている。これは応募者の過去の実際の行動を聴き出し、そこから自社の採用基準を満たしているかどうかを判断する。

職務経歴書に記載された内容から目だった事項、テーマを選び、その内容について詳しく質問する。いつ、どんな状況・背景で、誰と、どうやって行ったのかを質問してゆく。あくまで過去の行動という事実を聞くのであって、応募者の思い、感情は排してゆく。一つの質問の答えを受けて、「○○の点をもう少し詳しく具体的に」とか「○○の際、なぜそうなったのですか」と、さらに質問を掘り下げてゆく。応募者に答えを考えさせるのではなく、思い出させるようにする。

行動面接は過去の行動は、採用後も発揮されるという前提に立っている。自社の採用基準として「○○力」を求めるのであれば、過去の行動という事実から「○○力」が発揮された結果の行動だったかどうかを見極める。(行動面接の詳細はこちら



行動面接の限界


行動面接で明らかになった特性が、本当に採用後も自社で再現されるという保障はない。過去と将来では仕事を取り巻く環境は異なるし、自社と他社では商習慣や競争力、意思決定のプロセスも違っている。中途採用で求める即戦力という力も時間の経過と伴に陳腐化する。

採用後の行動特性を把握するには採用適性検査による性格分析も役に立つ。性格は経年変化しづらく、性格特性によって左右される行動は変わりにくい。例えば、当事務所で行っている採用適性検査では性格特性の一つとして「持続性」を測定する。この数値が高い人は几帳面で忍耐力が高いため、任された仕事は最後までやり遂げるという責任感の強い行動につながる(←必ずそうなるとは限らない)。性格特性に裏打ちされた行動は応募者の採用後の行動を映し出す鏡といえる。

採用業務については世上やネットにあまたの情報が溢れているが、採用の成功には採用後の人材育成も大きく関わっていることを忘れがちだ。採用が上手くいっている会社は人材育成にも力を入れ、結果として社員が成長・定着し、採用業務を成功させている。人材の育成を疎かにして採用だけにいくら注力しても改善は見込めない。

2015/5/16





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