人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

イノベーションと会社・組織の関係を読み解く



前回は個人とイノベーションの関係についての研究成果を紹介した。今回は会社・組織とイノベーションについての調査研究を取り上げる。日本では個人によるイノベーションが組織の壁に阻まれてしまうケースが多々あると思われるため、組織的にイノベーションが起こる仕組みの解明はとても重要だ。

世界的に知られた人材開発・組織開発の会員組織であるATD日本法人(Association for Talent Development)は、組織全体の継続的な改善や試行錯誤の積み重ねによってイノベーションを起こしている企業に焦点を当てた調査分析を行った。ベンチマークになる15社を対象に文献調査やインタビューを行い、145社からのアンケート調査の回答について統計的手法による分析を行った。

その結果、イノベーションの度合いが高い企業に共通して見られる成果指標として次の4つが抽出・分類された。

  1. 改善提案件数や特許取得件数といった「アイデアの創出」
  2. 社員による自発的な「業務改善」の推進度
  3. 新製品や新サービスの重要視度、主力製品の独自性、主力事業の入れ替わり度といった
    「商品開発・事業開発」
  4. 5年以上に渡る長期ビジョンの掲示や経営陣の主導による経営改革の推進という
    「長期的な経営改革」






イノベーションが活発な会社の仕組み


次にイノベーティブ度が高い企業の仕組みの解明に取り組んだ。イノベーションが活発な企業のモデル化を図る試みだ。

出来上がったモデルでは、下図のように、まず「経営トップのリーダーシップ行動」が「組織文化」と「組織・人材マネジメント」に影響を及ぼす。そして、これらの2つが「業務オペーレーション」に影響を与え、その結果、成果指標である「①アイデアの創出」と「②業務の改善」をもたらしていることがわかった。ちなみに「業務オペレーション」とは、社員の自発的な行動や知識・スキルの共有、社外との交流・協働などを指す。





また「組織・人材マネジメント」は、成果指標の「②業務の改善」「③商品開発・事業開発」「④長期的な経営改革」にも影響をもたらしている。そして、最初の「経営トップのリーダーシップ行動」は直接、「④長期的な経営改革」に影響を与えていた。

経営トップのリーダーシップというトップダウンと、「組織文化」と「組織・人材マネジメント」を通じた「業務オペーレーション」というボトムアップによる2つの動きが一体化することで、組織的なイノベーション体質が出来上がるということになる。


イノベーションに必要な組織の能力とは


次に、4つの成果指標(アイデア創出・業務改善・商品事業開発・経営改善)に影響を与えると推察される組織の能力を探ると、次の4つが浮かび上がった。

A : 組織のイノベーション推進力
イノベーションをもたらす人物像や行動指標・目標値を明示する / 経営資源を確保する場や仕組みの構築 / 社員が自発的に行動する仕掛け作り / 知識やスキルの公開・共有 / 社外からの知識や技術の取り込み / 変化対応の実行スピードを重視する姿勢

B : 現場の社員の組織的な学習能力
イノベーションを実体験させる / 理念や戦略に沿った行動 / 社外の人や組織との交流・協働

C : 多様な人材の活用力
多様性を重んじた採用基準や登用方針の明示 / イノベーティブな人材の発掘と活用

D : 失敗の許容力
チャレンジの称賛 / 挑戦をプラスに評価する人事評価


このうち成果指標に影響を及ぼしているのは、A の「組織のイノベーション推進力」とB の「現場の社員の組織的な学習能力」だった。下図のように A の「組織のイノベーション推進力」は、成果指標の①アイデアの創出、③商品開発・事業開発、④長期的な経営改革に影響を与え、B の「現場の社員の組織的な学習能力」は、②業務改善と③商品開発・事業開発に影響を与えていた。





C の「多様な人材の活用力」とD の「失敗の許容力」の2つは統計上、有意な影響が認められなかった。時折、イノベーションのためにダイバーシティやチャレンジの推進が掲げられるが、少なくとも今回の調査からは、これら2つがイノベーションに影響を与えていることは確認できなかった。


イノベーションに関わる2つのリーダーシップ


そして、A の「組織のイノベーション推進力」に影響を与えるのは「部門責任者のリーダーシップ行動」であり、B の「現場の社員の組織的な学習能力」に影響を及ぼすのは、「管理者層のリーダーシップ行動」であることも明らかになった。





「部門責任者のリーダーシップ行動」とは、多様な人材の配置 / 開放的な議論の促進 / 周囲からの干渉の阻止 / アイデアを前例や常識、慣習で評価しない / アイデアの事業化に向け内外の協力を取り付ける / 失敗から学ぶことを促す、などが挙げられる。

「管理者層のリーダーシップ行動」としては、柔軟な発想 / アイデアの実現性・有効性の観察や確認 / 粘り強い試行錯誤の継続、などがある。

部門責任者や管理者のリーダーシップは、A:組織のイノベーション推進力とB:現場の社員の組織的な学習能力というプロセスを経ることで間接的にイノベーションに影響を与えており、単に役職者のトップ・リーダーシップだけでは会社組織はイノベーティブになれないことになる。


リーダーシップについて詳しくお知りになりたい方は以下のページをどうぞ
リーダーシップの理論と実践


2021/01/11





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