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給料は人で決まる? それとも仕事で決まる?



終身雇用制度や年功序列賃金の終焉、新卒採用の縮小、70歳までの継続雇用、同一労働同一賃金の法制化、副業の解禁など、これまでの日本企業の人事の仕組みが大きく変わろうとしている。しかし、これらは外面的な変化であり、目に見えるものだ。

一方で目に見えない仕組みについても見直しが進もうとしている。それは人に応じて給料を決めるという「人基準」の賃金の決め方だ。この方法は当たり前すぎて、普段はその存在を意識することさえない。しかし諸外国の多くは人によって賃金を決めるのではなく、仕事によって賃金が決まる「仕事基準」の仕組みになっている。

これが賃金制度になると、日本の「人基準」は「職能給」になり、「仕事基準」は「職務給」になる。「役割給」は仕組みの上では仕事基準だが、人事評価制度によっては人基準の要素が入り込むことがある。

「人基準」と「仕事基準」の違いは人事制度・賃金制度の違いというよりも、国の成り立ちに端を発した発想の違いと言える。諸外国では多様な出自を持つ人々を会社が定めたルールに従わせて運営する必要がある。人によって賃金を決めると、人種や民族、国籍、宗教などによる差別が持ち込まれる恐れがある。そのため賃金は仕事で決めるようにすることで労使間のトラブルを避けようとする。こうした事情が、最近よく耳にする日本企業の メンバーシップ型雇用 と諸外国での ジョブ型雇用 の違いの背景にある。





賃金の決め方が違えば、仕事のやり方も違う


職能給では人を評価して処遇を決める。わかりやすい例えをすると、社員ごとに給料という値札が貼り付いているようなイメージだ。仮に人事異動によって、他の部署へ異動しても、付けられた値札は変わらないから給料も変わらない。

一方、仕事基準の職務給や役割給は仕事によってあらかじめ賃金が決められる。そのため、同じ仕事に就く人は年齢や性別、勤続年数、新卒採用か中途採用かなどを問わず、誰でも同じ給料になる(同じ仕事であっても賃金に上限と下限を設け、その範囲内で決定するという運用をしている場合は、人によって賃金が異なる)。その結果、必然的に 同一労働同一賃金 に近づく。人事異動は滅多に行われず、仮に異動によって仕事が変われば、賃金が変わることもある。

賃金の決め方の違いは仕事の進め方にも現れてくる。わかりやすい話として大掃除の例を使って説明しよう。職能給の日本の会社では大掃除をする際、人ごとに掃除をする箇所を配属によって振り分ける。Aさんは浴室、Bさんはキッチン、Cさんは子供部屋といった具合だ。仕事を割り振った後は、担当する部署の先輩が掃除のやり方をOJTで教える。

一方、職務給や役割給では、責任者が大掃除について、水回り、床掃除、窓ふきといった種類ごとに区分けをする。そして区分けされた掃除ごとに経験者や専門家を社内・社外から見つけてきて、その担当に据える。仮に水回りの掃除を命じられた労働者は、家じゅうの水回りの掃除だけをする。

大掃除の例のように、日本では人ごとに仕事を割り振るのに対し、諸外国では仕事に人を就けるというやり方をする。そして日本では定期的に掃除をする部屋が変わる。これを続けていると、やがて家の掃除はどの部屋でもできるようになる。在籍している会社という家については掃除のプロになるが、転職をして別の家の掃除をするとなると、勝手が違い、それまで培ってきた経験が使い物にならない。

一方、職務給や役割給では、水回りの掃除に就く人は、毎年、水回りの掃除だけをするため、水回りの掃除という仕事のプロになる。転職によって大掃除をする家が替わっても、水回りの掃除をするため、これまでの経験が無駄にならず、即戦力として通用する。国によっては水回りの掃除という仕事のレベルを認定する機関もあったりする。




Michal JarmolukによるPixabayからの画像


なぜ人基準の賃金の決め方が見直しされるのか


日本独自の「人基準」の賃金の決め方は、これまであまり大きな問題にならなかったが、ここに来て急速に見直しが進められようとしている。その理由としては次のようなものがある。

「人基準」の職能給は職務遂行能力(職能)を評価して賃金が決まる。職能には発揮された能力だけでなく、保有しているだけの潜在的な能力も含まれる。スポーツ選手に置き換えると、試合に出ていない選手の力を評価するのに近いため、どうしても年齢を重ねるごとに職能も向上するという年功序列賃金に陥りがちになる。その結果、社員の平均年齢が上がると会社の総額人件費も上がる。

さらに高年齢者雇用安定法の改正により、企業には70歳までの就労機会確保が努力義務化されたため、年功序列の賃金制度では人件費がこれまで以上に高騰する恐れもある。そして優秀な若手社員ほど年功序列的な賃金制度に嫌気を差して、退職してしまう事態も懸念材料として浮上している。

また技術の進歩や革新のスピードが年々早まり、専門性の奥行きも深くなり、社内での人材育成が追い付かなくなっている。競争力のある製品・サービスの開発のためには中途採用を強化せざるを得ないが、年功序列化した職能給は中途採用者に不利に働き、採用で他社や諸外国に競り負けてしまう。

そして高齢者・女性・外国人・限定正社員といった多様な属性の社員が増え、同一賃金同一労働を定めた パートタイム・有期雇用労働法 の施行により、これまでのように労働契約や雇用形態が違うという理由だけで、待遇に差を設けることが難しくなってきた。

また「パートタイム・有期雇用労働法」は、会社に対して非正規社員から正社員との待遇の違いの内容や理由などについて説明を求められると、仕事の内容や責任の度合いが異なることを説明する義務も課している。日本の会社では正社員と非正規社員の仕事を厳密に区分せず、賃金と仕事が結び付いていないため、この説明責任が果たせない事態が予想される。

日本の会社は、これまでは一軒家での暮らしと同じだったと言える。家にいるのは互いに親密な関係の家族だけなので、暮らしていく上でのルールを特に決める必要はなかった。必要が生じれば、その都度、家族で話し合って決めれば済んでいた。しかし現在の会社はマンションでの暮らしのように、多種多様な人たちが同じ建物で暮らしている状態だ。そのため、管理規約のような透明性が高く、公正・公平なルールが必要になってきたと言える。


次回は人基準の「職能給」と仕事基準の「職務給・役割給」という賃金制度の違いを取り上げる。

2021/04/22





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