人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

人事制度における職能給と職務給・役割給の違い



前回は日本企業で主流とされる人によって給料を決める職能給と、諸外国で一般的な仕事によって給料を決める職務給・役割給の違いについてお届けした。今回は人事制度とその運用における職能給と職務給・役割給の違いを見てみよう。

職能給では社員の保有する職務遂行能力を評価して、該当する資格等級に位置付け、その等級に応じて定められた一定の範囲内で賃金が決まる。資格等級はランキングのようなもので、大相撲の番付と考えるとイメージしやすい。

一方、仕事基準の職務給役割給では、仕事の価値の大きさ(ジョブサイズ)を仕事の重要性、責任の度合い、難易度などを測って数値化する。そして、ジョブサイズを一定の幅ごとにまとめて等級を設定し、等級ごとに賃金の幅を決める。その結果、同じジョブサイズの仕事に就く人は、誰でも同じ範囲内で賃金が決まる。

ジョブサイズを図るには、次のような手法がある(大企業向け)

  1. ジョブ・ランキング (Job Ranking)
  2. ジョブ・クラシフィケーション (Job Classification)
  3. マーケット・プライシング (Market Pricing)
  4. ファクター・コンパリソン (Factor Comparison)
  5. ポイント・ファクター (Point Factor)


これに対し、厚生労働省は学習院大学が開発した「GEM Pay Survey System」をベースとした手法を紹介している。職務や役割の大きさを、以下の8つの項目を用い、それぞれを1点~5点で評価し、自社に応じたウェイトを設定した上で、ジョブサイズを数値化する(中小企業向け)

  1. 人材の代替性 (他の労働者とどの程度代替えが可能か)
  2. 革新性
  3. 専門性
  4. 裁量性
  5. 社内の対人関係の複雑さ
  6. 社外の対人関係の複雑さ
  7. 問題解決の困難度
  8. 経営への影響度


詳しい使い方は以下の「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」 のP8以降で解説されている。

職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアルの表紙
(↑画像クリックでもPDFファイルが開きます)


賃金評価制度での違いとは


「人基準」と「仕事基準」による賃金の決まり方の違いから、職能給では人事評価によって社員の能力が向上したと判定されると基本給が上がる。会社の経営方針や戦略・計画の変更、業績の良し悪しは関係がない。また職能(職務遂行能力)は蓄積するという基本思想のため、よほどのことがない限り資格等級が下がる降格はない。

一方、職務給や役割給では、自らが上位のジョブサイズの仕事に就くか、現在の自分の仕事のジョブサイズが見直され高い位置づけになると基本給が上がる。社員本人の能力の向上は考慮されないが、上位の仕事に就ける機会は増える。ただし役割給の人事評価において役割に見合った行動評価の要素を取り入れると、人基準による評価要素が入り込むことがある。

つまり職能給は自分が頑張れば、会社の状況とは関係なく賃金が上がり、下がることは滅多にない。それに対し職務給や役割給は、社員本人とは関係のない事情、例えば会社による仕事やポストへの任免や、会社の経営方針・経営計画の変更・見直しなどにより仕事の重要さが変わるといった理由で、賃金が上がったり下がったりする。

この社員本人の頑張りが評価されず、会社の事情によって賃金が変わるという考え方は、日本では馴染みがない。特に現在の役員や上位階層の管理職は職能給によって昇進・昇格し、今の地位に就いている。このため自分が成功者として評価されたモノサシと異なる人事制度を導入することについて、頭では理解できても、心情的に納得できないことがある。

しかし仕事によって賃金が決まるのが当たり前と考える外国人社員、外国人投資家、海外勤務経験者にすれば、職能給は勤続年数により社員をランク付けする不合理な仕組みに映る。彼らにすれば雇用されている以上、会社の事情によって賃金が変わるのは当たり前で、同じ価値の仕事をしていれば、誰でも同じ賃金で処遇される方が合理的で公正・公平で、透明性が高いという受け止め方をする。日本の「情」と諸外国の「理」の文化の違いとも言える。

職務給や役割給は会社の経営方針や経営計画、事業戦略、重点課題が変更されると、仕事のジョブサイズが変わり、賃金も変わる。このため経営上、重要と目される仕事や部署には自動的に人件費という経営資源が重点的に投入される恰好になる。一方、職能給では自社の経営方針が変わっても、社員の処遇は本人次第で決まるため、人事制度の変更や人件費の配分が見直しを迫られることはあまりない。





モチベーションダウンに対処する方法


職能給に代わって職務給や役割給を導入すると、経営方針や事業計画の変更の度に、ジョブサイズや等級制度、評価制度の見直しが求められる。また新たな戦略を実行するために人事異動や中途採用を行う必要が生じる。経営との人事の連動性が高まり、人事部門の責任や業務量は増し、ジョブサイズが大きくなり賃金が上がるにも関わらず、負担増を嫌って職務給や役割給の導入を阻止しようとする人事担当者も出てくる。

その際によく出てくる話が、職務給や役割給は上位の仕事やポストが空かない限り賃金が上がらないことによる社員のモチベーションダウンの問題だ。しかしモチベーションダウンは職能給の下でも生じている。多くの会社では規模の拡大が難しく、管理職に昇進できるのはかなり狭き門になっている。管理職に昇進できないと専門職として処遇されるが、際立った専門性がない「名ばかり専門職」となることも多く、ヤル気の低下を招いている。

職務給や役割給におけるモチベーションダウンの対処法としては、まず長期間同じポストに留まっていて、自分のポジションを空けない上位階層の社員や管理職を異動させる方法がある。部下が昇格できないのは、あなたが昇格しないからだという訳だ。外資系のコンサルティング会社の中には「Up or Out」と言って、「昇格するか、さもなければ退職」といった社風のところもある。経営方針の見直しに伴い、昇格や降格人事を繰り返し、降格しても次回に復帰や復活、再登板があれば、やがてそれが当たり前という組織風土が形成される。

もう一つの方法は、社内での昇格昇進だけを目指すキャリアではなく、社外でも通用する仕事の専門性を高めることで将来の職業人生に意識を向けるというやり方だ。そのためにはキャリア研修やキャリアコンサルティング、サバティカル休暇、短期間の出向体験などが効果を発揮する。自分にとって働く目的は今の会社での昇進昇格以外にもあるのではないかを考えてみる機会を提供する。

人基準と仕事基準のどちらの仕組みも一長一短がある。今後、仕事基準の職務給や役割給は広がるものの、会社の規模や業態によっては人基準の職能給が適しているという場合もある。また階層や部署によって、人基準と仕事基準の使い分けを図るというやり方もある。会社の人事に関する基本姿勢をチェックした上で、自社の賃金のあり方を検討し、自社に適した基準を採用するのが最良の策だろう。


2021/05/25





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