人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

急成長を遂げたリクルートの経営手法


日本にやって来る外国人の多くは、日本人や日本社会が規律的で、礼儀正しいという印象を抱く。それは長所である一方、個人の存在や個性を抑え、組織や集団に従うことを優先させた結果とも言える。

会社においても「私」という「個」の存在を際立たせるより、組織の一員として一括りにされることを当然として受け入れている面がある。そのため大成した多くの経営者はカリスマ性を備え、組織を束ねる力を持ち合わせている。

その対極にいたのがリクルートの創業者、江副浩正 氏だ。カリスマ性に欠け、多くの人を魅了する力を持ち合わせていなかった。そのため社員一人ひとりの個の力を活かす経営という独自の道を歩んだ。チームワークよりも個人プレーによって短期間で急成長した リクルート の秘密を探ってみることは経営者のみならず、管理職やマネージャーの方にも有益だろう。



     江副浩正 氏


秘密その1 先見の明


リクルートを短期間で急成長させた江副氏の経営には2つの特徴があった。一つは江副氏の先見の明だ。学生時代に大学内で学生向けに発行されていた東京大学新聞でアルバイトを始める。仕事は新聞に載せる広告の出稿主を見つけるというものだった。

広告主が見つからず困っていた時、学内の掲示板に就活学生向けの会社説明会の案内が掲示されていた。「これだ!」とひらめいた江副氏は早速、掲示板で説明会を案内していた社に出向き、大学新聞への広告出稿を打診するとすぐにOKが出た。これをきっかけに他の会社にも営業すると面白いように求人広告が集まった。

この昭和30年代当時は、会社側はどの大学にどんな学生がいるのかという情報がなかった。一方、就活学生の方も、世間にはどんな会社が自分を必要としているのかという情報がなかった。求人側と求職者の間に情報のミスマッチがあり、それを埋めたのが求人広告だった。高度経済成長を迎え、会社の採用意欲が旺盛だった時代背景も追い風になった。

江副氏は大学を卒業すると就職をせず、会社を立ち上げ、新卒学生向けの求人情報だけを掲載した雑誌を作り、学生には無料で配るというビジネスモデルを考え出した。収益は学生を採用したい会社からの広告料だ。会社にはまだ電卓もなくソロバンを使っていた頃に、情報がビジネスになることに目をつけた。

その後、掲載される求人情報を高校生や中途退職者向けにも広げ、さらに不動産や海外旅行、中古車の情報にも範囲を広げるようになる。いずれも需要者と供給者の間に情報のギャップやミスマッチという非対称性があり、広告によって両者のマッチングを図るというビジネスモデルだ。

さらに江副氏は、いずれ情報は雑誌からコンピュータへ切り替わるという予想を立て、1966年(昭和41年)にいち早くコンピュータを導入する。集めた情報はコンピュータに蓄積し、デジタル情報としてユーザーに提供するように変わるという読みからだった。

当時はIBMが大型コンピュータを大学や企業の研究所向けに販売を始めた頃で、パソコンは影も形もなかった。そんな頃に情報が紙からデジタルに変わることに着目したのは、時代の先を見通すことに長けていたと言えるだろう。





秘密その2 人心掌握術


そしてリクルートが急成長したもう一つの秘密は、科学的な知見や研究成果に裏打ちされた人心掌握術による経営だ。自社開発した適性検査を使って、会社の経営方針やカラーに合う優秀な新卒学生を採用していく。また中途退職者や既婚女性、在日外国人にも採用の門戸を開いた。

採用後は誰にでも平等に機会を与え、高い自由度と大きな権限を与え、やりたい事をやりたいようにやらせ、成績を上げれば高い報酬で応えた。江副氏の口ぐせであり、今もリクルートで頻繁に交わされるのは、「それでキミはどうしたいの?」という上司から部下への問いかけであり、出された提案に対しては「それならキミがやって」という会話だ。

会社や上司が作業を指示したり管理をするのではなく、やりたいようにやっていいから、自分でどうしたいのかを考え、自分の仕事は自分で作れという主義手法だ。創業の精神である「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ」というのは、カリスマ性に欠け、コンプレックスを抱いていた江副氏自身が会社を成長させる中で自らが歩んできた道でもある。



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危険と背中合わせの経営


江副氏は法外とも言えるような費用をかけて、こうした経営手法にやり甲斐や張り合いを感じる人を採用した。人事制度がヤル気を引き出したというよりも、やりたいようやれることに惹かれる人を集め、人間の根源的な欲求とも言える経済的報酬や自律心、主体性に訴えることで組織としての求心力を高めていった。

その結果、社員には自分がこの会社やこの事業を支えているという圧倒的な当事者意識が生まれ、それが強力な営業力の源になった。

先見の明と科学的な手法による人心掌握術によりリクルートは急成長するが、その先には思わぬ落とし穴が待ち受けていた。創業当初からのメンバーの一人は江副氏を評して、「抜群に頭がよかったが、多少倫理観に欠けるところがあった」と語る。法に触れないからいいだろうという考えだ。

社会的な正義や大義よりも、野心や野望が勝っていたのかもしれない。そのため巨大化した組織はモラルというブレーキが効かず、未公開株の譲渡というリクルート事件に繋がっていく。

人間の欲望には限りがなく、その欲望に訴える経営手法は非常に効果的である反面、一歩、使い方を誤ると会社自体が欲望の餌食になりかねない恐れと背中合わせにある。


【次号】 リクルートに学ぶ採用重視の人事戦略


2022/12/10




起業の天才 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男



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