人事労務管理と人材マネジメントに関する情報発信

リクルートに学ぶ採用重視の人事戦略


前号ではリクルートの創業者、江副浩正氏の足跡を辿ったが、リクルートという会社の人事についても示唆に富むところがあるので、その特徴を見てみよう。

人事の役割・機能としては採用、配置、育成、評価、報酬(賃金)、代謝(退職)があるが、リクルートでは圧倒的に採用を重視している。成績優秀な学生や秀でたスキル・経験の持ち主であり、自社の価値観に近い人物を積極的に採用する。

江副氏が経営した頃、成績優秀な学生の多くは国家公務員や旧財閥系企業に就職した。リクルートのような新興企業に就職するような学生は稀な存在で、世間から見れば「変わり者」だ。そんな「変わり者」の中から自社のカラーに合った社員を見つけ出すには、かなりの時間とカネを費やさざるを得ない。リクルートにとって採用はメーカーの設備投資と同じレベルの重要性を占めていた。

リクルートは採用という人事の入り口でカネと時間を投入することで、後工程で生じる様々な問題の発生を抑えようとしている。採用後の社員教育や人事評価の負担を減らし、あまり教育しなくてもよい人物や、やりたい事ができる環境にヤル気を覚える人を採用することに力を注ぐ。

リクルートでは採用を重視した結果として、さまざまな仕掛けや社内制度が機能する格好になっている。制度によって人材が活性化するのではなく、元々活性化しやすい人物を採用した結果、制度が機能しているに過ぎない。仮に制度がなくても、社員が自分で自分のヤル気に火をつける、そんな人を集めていた。


【前号】 急成長を遂げたリクルートの経営手法

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求めらるのは採用との整合性


同社のように採用の比重を高める際は、採用とその後の施策との整合性を取ることが重要だ。整合性が取れていない例としては、次のようなケースがある。

  1. 採用では将来の可能性を期待しておきながら、採用後には育成や教育に労力をかけない
  2. 人間性重視で採用しておきながら、配置では専らスキルや経験だけで配属先を決める
  3. 大器晩成を期待して採用したものの、人事評価は短期の成果を重視する



また整合性は自社の体質や組織風土との間でも求められる。いくつかの研究成果によると、自社の体質や組織風土を特徴づけるのは以下のような要素とされる。

  1. 社員に求める正確さや分析などの細部へのこだわりの度合い
  2. プロセスよりも成果を重視する傾向
  3. 意思決定の際に人間関係を重視する度合い
  4. 仕事がチームプレーで遂行される度合い
  5. 積極性
  6. 組織の意思決定が安定を嗜好する度合い
  7. 社員に技術革新を求め、リスクを取ることが奨励される度合い


これらの項目がどの程度のレベルにあるのかを、社員からのヒアリングやアンケートによって明らかにすることで、自社の体質や風土を数値化できる。

ヒアリングやアンケートの際は用語についての理解や認識について共通化を図ることが欠かせない。例えばこの研究成果における「積極性」は、押しが強く、競争を好む志向を「積極性」としているが、主体的に行動することを積極性と捉える人がいると、表向きの結果と実質的な内容に齟齬を来すことになりかねない。


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人材のフローとポートフォリオを描く


採用重視の人事では数年後の自社の人員構成を見据えた上で、採用の方法や方向性も検討する。そのためにはおおまかな人材フロー人材ポートフォリオの設計図を描いてみるよい。

人材フローとは、どこから、どんな人物を、どれぐらい採用するか、逆にどこから、どれぐらいが退出し、どれぐらいが内部昇格するかを描いた予想図だ。一方、人材ポートフォリオは階層や能力・スキル、人材のタイプなどの指標を使って、どういった社員がどれぐらいいるのかを示した構成図だ。毎年繰り返される人材フローが、数年後の人材ポートフォリオを形作る。

人材フローと人材ポートフォリオの一例としては以下のようなものがある。



矢印が採用・退出・内部昇進昇格という「人材フロー」を示している。図の下には新卒採用ルートがあり、左側の中途採用はポテンシャル採用(将来性を期待した採用)と即戦力採用に区分けされている。三角形を形作る「人材ポートフォリオ」はどの会社でも使えるように経営階層、マネジメント職、専門職、一般社員としている。

人材フローを描く際に考慮する要素としては、以下のようなものがある。

  1. 自社の採用力
  2. 人材育成力
  3. 現在および将来の人手不足感
  4. 技能獲得に必要な年数
  5. 人材が質的な変化をするスピード
  6. 人材を引き止める自社の求心力
  7. 社員の獲得した能力・スキルが社外でも通用する汎用性
  8. 社内での職種転換の難易度



これらの要素の強弱によって、退職していく社員と内部から昇進昇格していく社員のおよその割合が予想され、それに応じてどういったポートフォリオの人材の採用を強化していくかという青写真が見えてくる。例えば自社の採用力が弱く、階層別に求められる能力・スキルの連続性が高いといった場合は、内部昇格者を多めに見積り、退職者数を少な目に見込むようにする。

自社の人材フローと人材ポートフォリオを意識しておけば、退職者の穴を埋めるだけの場当たり的な中途採用や、単なる年中行事としての新卒採用から脱することができる。


2022/01/16



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