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在籍出向の実務上の留意点


コロナ禍による事業環境の急変に対応するため、数多くの会社で出向が行われた。今後も、予想もしない経営環境の変化に対処する方策の一つとして、あるいは人材の育成のため、また高年齢者雇用安定法の改正による70歳までの雇用継続の努力義務化などによって出向が活用される場面が増えそうだ。

出向には今の会社に在籍したまま、別の会社で働く「在籍出向」と、籍が他社に変わる「移籍出向」がある。ここでは「在籍出向」を取り上げる。


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出向と派遣の違い


出向については労働関係に関する法律の規定はなく、行政通達(昭和61年6月6日 基発333号)において、在籍出向とは「出向先と出向労働者との間に出向元から委ねられた指揮命令関係ではなく、労働契約関係及びこれに基づく指揮命令関係がある形態」としている。つまり、出向元と出向先の二重の労働契約が存在する。

この点が出向と似ている派遣との大きな違いだ。出向の場合、出向を受け入れている出向先は自社の労働契約に基づいて指揮命令を出す。これに対し、労働者派遣では派遣先の会社の指揮命令は労働契約によるものではなく、労働者派遣法に基づいている。

派遣先にすれは派遣労働者はあくまで「よその会社の人」であり、出向では出向者と労働契約があるため「多少なりとも身内の人」という関係になる。







在籍出向の労働関係


出向に関する法律が存在しないため、出向に関するルールは出向元・出向先・出向労働者の間での出向契約による。賃金をどちらが払うのか、所定労働日や労働時間はどちらの就業規則に従うのか、評価や処遇はどうするのかなど、およそ労働条件に関するすべての事項は会社同士と労働者間の取り決めや合意による。ただし、懲戒解雇や普通退職のような身分に関する事項は出向元の規定が適用される。

出向は指揮命令者が変わるだけでなく、労働条件の変更を伴うことも多い。では出向について労働者が同意しなかった場合はどうなるのだろう? 





同意がなくても出向命令は有効か


一般論としては、出向について就業規則に定めがあれば、会社は出向命令を出すことができ、仮に労働者から同意を得られなくても、この命令は効力を有する。

最高裁も平成15年4月18日の 新日本製鉄事件 において、同社の就業規則には会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがあるという規定があり、労働組合と締結した労働協約にも出向に関する詳細な規程があることから、会社は労働者から個別の同意を得ることなく、出向命令を出すことができるとしている。

ただし、出向命令が権利の濫用と認められる場合は命令が無効になる。労働契約法・第14条は、出向の必要性、対象労働者の選定に係る事情、その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、出向当命令は無効とすると定めている。この他にも出向に伴う生活環境や労働条件変更の不利益の程度や、手続きの相当性からも権利の濫用とされる余地がある。

先の最高裁判決では出向について、出向の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定などの規程があったことも、権利の濫用と判断されなかったことに繋がったと思われる。

出向については採用時の説明や就業規則による定めだけでなく、出向についてのできるだけ詳しい内容を別規程等で定めておくことが望ましい。


2024/03/16


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